肉用温度計を買ったものの、いざステーキを前にすると「どこまで刺せばいいの?」と迷いませんか。
針の先を少し入れるだけでいいのか。それとも肉の真ん中まで深く刺すのか。薄いステーキに上から刺したら、針がフライパンへ当たりそうになったという人もいるでしょう。
温度計は、ただ肉へ刺せば正しい数字が出る道具ではありません。
測る場所が表面に近ければ、実際の中心より高い温度が表示されます。反対に、脂や太い筋へ当てると、食べる赤身部分の状態を正しく判断できないことがあります。
先に結論をお伝えすると、肉用温度計は「何cm刺す」と一律に決めるものではありません。温度を感知するセンサー部分が、肉の最も厚い場所の中心へ届くまで刺します。
そして、厚さ1〜2cmほどの薄いステーキは、上からではなく側面から横向きに刺すのがコツです。
私は食品スーパー5社の精肉部門で、約25年間働いてきました。売場では同じステーキ用の商品でも、厚み、脂の付き方、筋の位置が一枚ずつ違います。見た目がよく似ていても、同じ時間で同じ焼き上がりになるとは限りません。
私自身、家庭で肉を焼くときに「もう火が入っただろう」と感覚だけで判断し、切ってみたら中心が思った以上に冷たかった経験があります。反対に、念のため加熱を続けた結果、せっかくの赤身肉をパサパサにしたこともあります。
そんな焼きすぎと生焼けの両方を減らしてくれるのが、中心温度を測れる肉用温度計です。
この記事では、薄いステーキへ温度計を刺す位置、中心を外さない横刺しの手順、温度計の選び方、おすすめ商品5選、肉の種類ごとの安全な考え方まで詳しく紹介します。
肉用温度計はどこまで刺す?正解は「センサー部分が肉の中心に届くまで」

肉用温度計を使うときに大切なのは、針を深く入れることではありません。
温度を感知する部分を、肉の中で最も温まりにくい場所へ置くことです。その場所は「熱の中心」や「サーマルセンター」と呼ばれ、両面を焼いたステーキでは、多くの場合、最も厚い部分の中央付近にあります。
表面から中心へ近づくにつれて温度は下がり、中心を通り越して反対側の表面へ近づくと再び上がります。この一番低い温度を見つけられれば、「表面は焼けているけれど中はまだ冷たい」という状態を見落としにくくなります。
「何cm刺すか」ではなく肉の厚みの半分を狙う
厚さ2cmのステーキなら、上面と下面のほぼ中間にあたる高さが中心です。厚さ1.5cmなら、その半分付近を狙います。
ただし、「横から1cm刺せばよい」という意味ではありません。
横方向には、肉の端から中央付近までプローブを進めます。縦方向では、肉の厚みの半分の高さを通す。この二つを分けて考えると分かりやすくなります。
ステーキが楕円形なら、細くなった端ではなく、幅と厚みのある場所を選びましょう。厚さが均一でない肉では、一番厚い部分が最後まで温まりにくいためです。
スーパーのパックを見ると、同じ重量でも、広くて薄い肉と、小ぶりで厚い肉があります。価格とグラム数だけを見れば似ていますが、焼きやすさはかなり違います。
中心温度を測りやすいのは、厚みがそろった肉です。ステーキを選ぶ段階で厚さを見る習慣をつけると、温度計も使いやすくなります。
温度を測っているのは針全体とは限らない
肉用温度計の針は、見えている金属部分のすべてで同じように測っているとは限りません。
デジタル式には、主に先端付近にセンサーがある製品が多くあります。一方、アナログ式や一部の製品には、先端から数cmの範囲全体を肉へ入れなければ正しく測れないものがあります。
この違いを知らずに「先端が少し入ったから大丈夫」と判断すると、正しい中心温度になりません。
購入後は、取扱説明書で次の項目を確認してください。
- センサーがどこにあるか
- 最低何cm差し込む必要があるか
- 温度が安定するまで何秒かかるか
- 測定中だけ刺すタイプか、加熱中も刺したまま使えるタイプか
- 本体やプローブを水洗いできるか
特に薄いステーキでは、先端付近の狭い範囲で測れる温度計が扱いやすくなります。
一番低い数字が見つかる場所を探す
肉の中心は、外から完全には見えません。そのため、一度で正確な位置へ当てようとしなくて大丈夫です。
プローブを中心と思われる場所より少し奥へ入れ、表示を見ながらゆっくり引き戻します。数字が下がり、最も低くなったあと、また上がり始めたら、その谷になった場所が熱の中心です。
「刺した瞬間の数字」だけを見るのではなく、先端を少し動かして温度の変化を見る。これが温度計をうまく使うポイントです。
薄いステーキを上から刺すと中心温度を外しやすい3つの理由

厚切りステーキやローストビーフなら、上から刺しても中心へ届かせる余裕があります。しかし、スーパーでよく見かける厚さ1〜2cm程度のステーキは、上から刺すと測定位置がずれやすくなります。
私も初めて温度計を使った頃は、肉の上から斜めに刺していました。しかし、刺す角度によって表示が大きく変わります。温度計の性能以前に、測っている場所が毎回違っていたのです。
理由1|プローブが中心を通り越してしまう
薄いステーキへ上から刺す場合、先端を数mm進めすぎるだけで、肉の中央を通り越してしまいます。
特にフライパンへ触れている下面付近は高温です。プローブの先端が肉を突き抜けたり、下面の近くへ寄ったりすると、中心より高い温度が表示されます。
その数字を見て「もう焼けた」と判断すると、実際の中心は目標温度へ達していないかもしれません。
上から斜めに刺せばよいと紹介されることもあります。厚みが十分にあり、刺す角度とセンサー位置を把握できていれば、斜め刺しでも測れます。ただ、薄い肉ほど角度のわずかな差が大きなずれになるため、初心者には横刺しのほうが中心線をイメージしやすいでしょう。
理由2|焼けた表面付近だけを測ってしまう
深く刺しすぎる失敗とは反対に、浅すぎる失敗もあります。
針先が焼き色のついた表面付近にあると、表示されるのは中心温度ではありません。表面は高温でも、中はまだ冷たいことがあります。
強火で短時間焼いた肉ほど、表面と中心の温度差は大きくなります。きれいな焼き色が付いていても、内部まで同じように温まっているわけではありません。
肉の色、出てくる肉汁、指で押した弾力も目安にはなります。ただし、肉の種類、熟成状態、冷蔵庫から出してからの時間によって見え方は変わります。
「焼き色が付いたから大丈夫」「透明な肉汁が出たから絶対に安全」と、一つの見た目だけで決めないほうが安心です。
理由3|脂・筋・骨の温度を拾ってしまう
温度計は、赤身部分へ刺すのが基本です。
大きな脂身、太い筋、骨のすぐ近くは避けましょう。脂や骨の周辺は赤身と熱の伝わり方が違い、食べたい肉部分の状態を判断しにくくなります。
たとえばミスジは、名前のとおり肉の中に筋が走っています。筋の真ん中へ先端を当てるより、筋を避けて左右の厚い赤身部分を測るほうが実用的です。
ミスジの筋と肉質については、別記事の「ミスジステーキの真ん中の筋は食べられる?同じパックでも硬さが違う理由」でも詳しく解説しています。
骨付き肉の場合は、骨へ先端を当てないようにします。中心と思った場所で急に硬い感触があったら、無理に押し込まず、少し位置をずらしてください。
薄いステーキにも使いやすい肉用温度計おすすめ5選

肉用温度計は、表示できる温度の範囲だけで選ばないほうがよいと私は思います。
ステーキで重要なのは、短い時間で温度が分かること、先端のセンサー位置を把握しやすいこと、横刺ししたまま数字を読めることです。
焼いている途中の肉は、温度計を当てている間にも加熱が進みます。表示が安定するまで長くかかる製品では、待っている間に肉を焼きすぎることがあります。
ここでは、薄いステーキへの使いやすさに加え、家庭での洗いやすさ、BBQでの見やすさ、価格のバランスが異なる5商品を選びました。
| 商品 | 特徴 | 向いている人 |
|---|---|---|
| ThermoPro TP19H | 約3秒の速い測定、表示自動回転、ホールド機能 | 最初の一本で失敗したくない人 |
| ThermoWorks Thermapen ONE | 公称1秒、先端センサー、高精度 | 速さと精度を最優先する人 |
| ドリテック O-280 | IPX7相当、ホールド、表示方向切替 | 洗いやすさと扱いやすさを重視する人 |
| タニタ TT-508N | IPX7、国内メーカー、ホールド機能 | 肉以外の料理にも幅広く使いたい人 |
| Weber すぐに測れる温度計 6750 | 肉料理とBBQ向けのシンプル設計 | BBQ用品を同じブランドでそろえたい人 |
価格や在庫は販売店によって変わります。購入前に、Amazon・楽天の商品ページで型番、販売元、保証の有無を確認してください。
1.ThermoPro TP19H|速さと価格のバランスで選びやすい
ThermoPro TP19Hは、初めて肉用温度計を買う人に紹介しやすいモデルです。
メーカー公称の応答時間は約3秒。測定範囲はマイナス50〜300℃で、マイナス10〜100℃では精度±0.5℃とされています。
プローブを開くと起動し、持ち上げるとスリープから復帰する機能があります。画面が持つ向きに合わせて回転するため、ステーキを横から測るときも数字を読みやすいのが利点です。
測定値を画面へ固定するロック機能もあります。火元から手を離し、温度計を安全な位置へ移してから数字を確認できます。
IP65の防水性能がありますが、水中へ沈めてよいという意味ではありません。洗うときはメーカーの説明に従ってください。
数千円台で購入できることが多く、家庭のステーキ、ローストビーフ、BBQ、揚げ物まで一台で使いたい人に向いています。
2.ThermoWorks Thermapen ONE|測定速度と精度を最優先する人向け
Thermapen ONEは、価格よりも測定の速さと精度を重視する人向けです。
メーカー公称では約1秒で測定し、マイナス20〜120℃の範囲で精度±0.3℃。IP67の防水性能があり、画面は持つ向きに合わせて自動回転します。
この製品の強みは、ただ早く数字が出るだけではありません。プローブ先端を肉の中で動かしたとき、温度の上がり下がりを追いやすいため、最も低い場所を探す横刺しと相性がよいのです。
一方で、家庭用温度計としては高価です。また、日本国内では輸入品として販売される場合があります。購入時は正規品かどうか、摂氏表示へ変更できるか、保証をどこが受け付けるかを確認してください。
毎週のようにステーキやBBQを楽しむ人、高価な肉を焼きすぎたくない人、道具を長く使いたい人には検討する価値があります。
3.ドリテック O-280|丸洗いしやすく、左右どちらの手でも見やすい
ドリテック O-280は、家庭での扱いやすさを重視したい人に向いています。
IPX7相当の防水仕様で、汚れたプローブを洗いやすいのが大きな利点です。生肉へ直接刺す道具なので、手入れのしやすさは軽く見ないほうがよいでしょう。
ホールド機能があり、測った温度を固定してから手元で確認できます。表示方向も切り替えられるため、右手でも左手でも使いやすい設計です。
メーカーの案内では、先端の斜めになっている部分が隠れる程度まで差し込むことが目安とされています。つまり、針全体を肉へ埋める必要はありません。
薄いステーキでは、斜めの先端部分が肉の厚みの中央を通るように横から刺します。国内メーカーの商品を手頃な価格で選びたい人、防水性を重視したい人に合います。
4.タニタ TT-508N|肉以外の料理にも幅広く使いたい
タニタ TT-508Nは、中心温度の確認だけでなく、揚げ物、パン作り、飲み物の温度などにも使えるスティック型温度計です。
測定範囲はマイナス50〜250℃。IPX7の防水タイプで、ホールド機能も付いています。カラーバリエーションがあり、生肉用とお菓子・飲み物用で色を分けたい家庭にも便利です。
細長い形で収納しやすく、複雑な操作が少ない点も家庭向きです。
ただし、薄いステーキで使うときは、プローブを上から深く押し込むのではなく、肉を火から外して横から測ります。表示が安定するまでの変化を見ながら、最も低い場所を探してください。
ブランドの分かりやすさ、丸洗いできる安心感、肉以外への使い回しを重視する人に向いています。
5.Weber すぐに測れる温度計 6750|BBQでシンプルに使いたい
Weberの「すぐに測れる温度計 6750」は、グリルやBBQで肉の温度を確認したい人向けのシンプルなデジタル温度計です。
測定範囲は0〜230℃。ステーキ、チキン、厚切り肉など、BBQでよく焼く食材の温度確認に使えます。
多機能なモデルより操作が分かりやすく、Weberのグリルやトングなどを使っている人は、道具を同じブランドでそろえやすいでしょう。
一方、購入前には防水性能、測定速度、センサー位置を商品説明と取扱説明書で確認してください。BBQでは暗い時間帯に使うこともあるため、バックライトの有無も使い勝手を左右します。
「年に数回のBBQで、焼き加減の確認に使えるシンプルな一本がほしい」という人に適しています。
安さだけで選ぶときに確認したい5つのポイント
1,000円前後の温度計でも、用途に合えば十分に役立ちます。ただし、価格だけで選ぶと「数字が出るまで遅い」「薄い肉では必要な深さまで刺せない」といった不満が出ることがあります。
購入前に、次の5点を確認しましょう。
- センサーが先端のどこにあるか
- 温度が安定するまで何秒かかるか
- 測定値を固定するホールド機能があるか
- プローブまたは本体を洗えるか
- 摂氏表示、電池、保証が国内で使いやすいか
また、赤外線式の非接触温度計は、フライパンや肉の表面温度を測る道具です。肉へ刺さずに測れるため便利ですが、ステーキの中心温度は測れません。
表面温度計と中心温度計は役割が違います。この記事の目的なら、必ず金属製のプローブを肉へ刺すタイプを選んでください。
薄いステーキでも失敗しない「横刺し」の正しい手順

ここからは、実際に薄いステーキを測る手順を説明します。
横刺しの目的は、針を横へ入れること自体ではありません。プローブのセンサー部分を肉の厚みの中央へ通し、最も低い温度を見つけることです。
慣れないうちは、焼く前の冷たい肉で刺す角度だけ確認しておくと、本番で迷いにくくなります。ただし、生肉を測った温度計は、そのまま加熱済みの肉へ刺し直さず、いったん洗浄してください。
手順1|焼く前に最も厚い場所を確認する
パックから肉を出したら、真上だけでなく側面も見てください。
ステーキは一枚の中でも厚さが違います。端が薄く、中央が厚いものもあれば、脂身側だけ盛り上がっているものもあります。
測る候補は、赤身が厚く、骨や太い筋、大きな脂の塊を避けられる場所です。
複数枚を焼くなら、どの肉が一番厚いかも確認します。厚い肉が最後まで温まりにくいからです。ただし、一番厚い一枚だけを測れば、残りも同じ温度だとは限りません。
手順2|ステーキをいったん火から外す
薄い肉をフライパンへ置いたまま横から刺そうとすると、指や温度計の本体が熱源へ近づきます。安全のため、清潔なトングで肉を持ち上げるか、清潔な皿やバットへ一度移しましょう。
生肉を置いていた皿へ焼いた肉を戻してはいけません。加熱後の肉を置く皿は、必ず別に用意してください。
BBQでも同じです。強い炭火の真上で長く測ろうとせず、グリルの火が弱い側か、清潔な皿へ移して測ります。
温度を測る数秒の間に肉が大きく冷めることはありません。慌てて火の上で刺すより、安全で正確です。
手順3|肉の側面からフライパン面と平行に刺す
肉をトングで軽く支え、側面の厚みを見ます。
プローブを、まな板やフライパンの面とほぼ平行にして差し込みます。狙う高さは、肉の上面と下面の中間です。
針先が上を向けば、上面近くの高い温度を拾います。下を向けば、フライパンで熱くなった下面へ近づきます。水平を意識するだけで、測定位置のずれを減らせます。
強い力は必要ありません。肉の繊維や筋へ当たって進みにくいときは、無理に押し込まず、少し横へずらします。
手順4|中心より少し奥へ進め、ゆっくり引き戻す
肉の幅の中央付近まで入れたら、表示を確認します。
そこで数字をすぐ確定せず、中心と思う場所より少しだけ奥へ進めてください。その後、表示を見ながらゆっくり引き戻します。
たとえば、奥で60℃、少し戻して56℃、さらに戻して53℃、その後55℃へ上がったとします。この場合、最も低かった53℃付近が熱の中心と考えられます。
温度計が遅い場合は、動かし続けると表示が追いつきません。数mm動かすごとに少し待ち、数字が落ち着いてから次へ動かします。
一回で中心を当てるゲームではありません。温度の谷を探すつもりで測ると、失敗しにくくなります。
手順5|場所を変えて2〜3回確認する
ステーキの形が不ぞろいなら、近くの別の場所も測ります。
端に近い場所は温度が高く、厚い中央部分は低く出ることがあります。最初の場所で目標温度へ達していても、別の厚い場所で数℃低いことは珍しくありません。
私は売場で肉を切るとき、同じ原木から取ったステーキでも、端と中央で形が変わることを何度も見てきました。家庭で焼くときも「同じパックだから全部同じ」と考えないほうがよいです。
複数枚ある場合は、できれば一枚ずつ測ってください。少なくとも、最も厚い肉と最も大きい肉は個別に確認しましょう。
測定後は毎回プローブを洗う
温度計は生肉へ触れる道具です。
測定後は、製品の説明に従ってプローブを洗浄します。防水でない本体まで水へ沈めてはいけません。
加熱途中の肉へ刺したあと、温度が足りずフライパンへ戻すこともあります。その温度計を洗わず、仕上がった肉へもう一度刺せば、プローブに付いた生肉由来の汚れを移す可能性があります。
面倒に感じますが、再測定の前に洗う、または食品用の除菌方法をメーカーの指示に従って行う。この習慣まで含めて、肉用温度計の正しい使い方です。
厚さ1cm・2cm・厚切りステーキでは測り方をどう変える?

横刺しが基本でも、肉の厚さによって難しさは変わります。
特に1cm前後の薄い肉は、中心へ正確にセンサーを置ける範囲が狭くなります。反対に、3cmを超える厚切り肉は測りやすいものの、中心へ届くまでの距離を見誤ることがあります。
厚さ1cm前後|細い先端で短時間に測る
厚さ1cm前後の肉は、上から測るには薄すぎます。横から刺しても、先端が上面や下面へ寄りやすいため慎重さが必要です。
肉を清潔なトングで軽く立て、側面の中央線を目で確認してから、細いプローブを水平に入れます。
この厚さでは、何度も刺し直すと肉汁が出やすくなります。焼く前に厚い場所を見つけ、測定回数を必要以上に増やさないことも大切です。
あまりに薄く、使用する温度計の感知部分を肉の中へ収められない場合は、その温度計で正確な中心温度を測るのは難しいと考えてください。
無理に「数字を出す」ことより、道具の測定条件を満たしているか確認するほうが重要です。
厚さ1.5〜2.5cm|横刺しを最も使いやすい厚さ
スーパーで販売されるステーキでは、このくらいの厚さをよく見かけます。
側面の中央から水平に刺し、肉の幅の中央付近で温度の谷を探します。上面と下面からの距離を目で確認しやすく、横刺しの基本を覚えるのに向いています。
牛もも肉のような赤身は、脂の多いサーロインより、加熱しすぎたときに水分の少なさを感じやすい部位です。中心温度を測る習慣が付くと、「念のためもう少し」が原因の焼きすぎを減らせます。
牛もも肉をしっとり焼く考え方は、「牛ももステーキがパサパサになる3つの原因|サーロインと同じ焼き方ではダメです」も参考にしてください。
厚さ3cm以上|横刺しと上刺しを使い分ける
3cm以上の厚切り肉は、上からでもプローブの先端を中心へ置きやすくなります。
ただし、最初から真上から一発で中心を狙うより、中心を少し通り越してから引き戻し、最も低い温度を探す方法が確実です。
横刺しなら、肉の厚みの中央線を保ったまま、幅の中央まで進めやすい利点があります。フライパンの上で扱いにくい大きさなら、一度清潔な皿へ移して測ってください。
ローストビーフのような塊肉では、加熱中も刺したまま使えるオーブン対応プローブが便利な場合があります。一方、薄いステーキは、その都度刺してすぐ測るインスタントリード型が使いやすいでしょう。
肩ロースとモモ肉の火入れの違いについては、「ローストビーフは肩ロースでも作れる?モモ肉との違いと失敗しない火入れ」で詳しく紹介しています。
骨付き肉・筋の多い肉|一か所だけで判断しない
骨付きステーキでは、骨のすぐ近くと、骨から離れた厚い赤身部分の両方を確認します。
骨へプローブが直接触れると、肉そのものとは違う温度を拾うことがあります。骨に当たった感触があれば、数mmから1cmほど位置をずらします。
筋の多い肉も同様です。太い筋を避け、食べる赤身部分の中心を2〜3か所測ってください。
中心温度の読み方|焼き加減と食中毒対策を混同しない

肉用温度計を使い始めると、「何℃ならレアですか」「何℃なら絶対に安全ですか」という疑問が出てきます。
ここで注意したいのは、レア、ミディアムレア、ミディアムといった焼き加減の温度と、食中毒を防ぐための加熱条件は、同じ意味ではないことです。
肉の種類、ひき肉か一枚肉か、筋切りなどの加工があるか、何分その温度を保ったかによって安全性の考え方は変わります。
「好みの焼き加減」と「安全の基準」は分けて考える
ステーキの焼き加減表には、レアは何℃、ミディアムは何℃という目安が掲載されています。しかし、その数字は主に食感や色の仕上がりを示すものです。
温度計へ一瞬表示された数字だけで、どの肉も同じように安全になるわけではありません。
加熱殺菌は、温度と時間の組み合わせで考えます。また、肉の表面に付着した菌だけを想定できる一枚肉と、内部まで菌が入り得るひき肉や加工肉では条件が違います。
家庭で安全を優先するなら、厚生労働省が案内している「中心部75℃で1分以上」を基本の目安として覚えておくと分かりやすいでしょう。厚生労働省は同等の加熱条件として、70℃3分、69℃4分、68℃5分、67℃8分、66℃11分、65℃15分も示しています。
低い温度ほど、必要な保持時間が長くなります。温度だけを見てすぐ火から外さないようにしてください。
ひき肉・成形肉・筋切り肉は中心まで十分に加熱する
ハンバーグやメンチカツなどのひき肉料理は、肉の表面にあった菌が内部まで混ざる可能性があります。
サイコロステーキとして販売される成形肉、複数の肉を結着した肉、針で筋切りされたテンダライズ肉、調味液を内部へ浸透させた肉も、普通の一枚肉と同じ感覚で扱わないほうが安全です。
商品のパックに「中心部まで十分に加熱してください」「あらかじめ処理してあります」などの表示があれば、必ず確認しましょう。
精肉売場で働いていると、「見た目はステーキだから、表面だけ焼けば大丈夫だと思った」と言われることがあります。しかし、商品名がステーキでも、加工方法まで同じとは限りません。
見た目より、パックの表示を優先してください。
鶏肉・豚肉を牛ステーキと同じ感覚で焼かない
鶏肉は、加熱不足によるカンピロバクター食中毒に特に注意が必要です。鶏むね肉や鶏もも肉が薄い場合も、横から中心を測り、十分に加熱します。
豚肉も、生や加熱不十分な状態で食べないようにします。
「牛ステーキでミディアムレアが好きだから、豚や鶏も同じくらいの色でよい」という判断はできません。肉の種類ごとに安全な扱いが違います。
幼児、高齢者、妊婦、体調が弱っている人へ出す場合は、加熱不足を避け、十分に火を通してください。
余熱を見込んでも早く外しすぎない
肉は火から外したあとも、表面の熱が中心へ移るため、中心温度が少し上がることがあります。これが余熱やキャリーオーバークッキングと呼ばれる現象です。
ただし、上がる温度は毎回同じではありません。
厚い肉、大きな塊肉、高温で焼いた肉は余熱の影響が大きくなりやすく、薄いステーキは蓄えている熱が少ないため、厚切り肉ほど上がらないことがあります。
「休ませれば5℃上がる」と決めつけて、目標より大幅に低い温度で外すのはおすすめしません。
最初の数回は、火から外した直後と、休ませた後の温度を両方測ってみてください。自宅のフライパン、肉の厚さ、火力で何℃上がるかが分かれば、次から狙った焼き上がりへ近づけられます。
色だけで安全性を判断しない
肉の断面が赤いか、茶色いかは、多くの人が気にするポイントです。
しかし、肉の色は温度だけで決まりません。肉に含まれる色素、保存状態、酸素への触れ方、pHなどでも変わります。十分に加熱してもピンク色が残ることがあり、反対に温度が足りなくても茶色く見える場合があります。
だからこそ、色だけでなく中心温度を測ります。
温度計は肉を見る経験を不要にする道具ではありません。見た目、におい、肉の状態、商品表示を確認したうえで、感覚では判断しにくい内部を数字で補う道具です。
まとめ|薄い肉ほど「深く刺す」より「横から中心を通す」

肉用温度計は、何cm刺せばよいと一律に決めるものではありません。
大切なのは、温度を感知するセンサー部分を、肉の最も厚い場所の中心へ置くことです。
薄いステーキでは、次の手順で測りましょう。
- 肉の最も厚い赤身部分を見つける
- ステーキをいったん火から外す
- 側面の中央から、プローブを水平に刺す
- 中心より少し奥まで進め、ゆっくり引き戻す
- 表示された最も低い温度を確認する
- 場所を変えて2〜3回測る
- 使用後と再測定前にプローブを洗浄する
上から刺してうまく測れなかったからといって、温度計が役に立たないわけではありません。薄い肉では、温度計の性能より、刺す方向とセンサー位置のほうが結果へ大きく影響することがあります。
私は精肉の仕事を約25年続けていますが、同じ部位、同じ価格、同じ重量の肉でも、厚みや筋、脂の付き方は一枚ずつ違うと感じます。
その違いがある以上、「片面を何分焼けば必ず完成」とは言い切れません。
最後は肉の中心を実際に測る。それが、生焼けを防ぎながら、必要以上に焼いて硬くする失敗も減らす方法です。
最初は温度計を刺すこと自体に手間を感じるかもしれません。しかし、横から中心を通す感覚を一度覚えれば、特売の赤身ステーキでも、少し奮発した厚切り肉でも、自分の狙った仕上がりへ近づけやすくなります。
高価な肉を買う前に、まず中心を正しく測れる一本を用意する。精肉の現場を長く見てきた私としては、それも家庭で肉をおいしく食べるための、十分に価値のある投資だと思います。


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