スーパーで牛すね肉が安くなっているのを見つけても、「圧力鍋を持っていないから、うちでは調理できない」と諦めていませんか。
牛すね肉は、ビーフシチューやカレー、赤ワイン煮などに使うと、濃厚なうま味を楽しめる部位です。
一方で、普通の鍋で煮てみたものの、2時間たってもゴムのように固く、「これ以上煮たら、もっとパサパサになりそう」と困った経験がある方もいるでしょう。
先に結論をお伝えすると、牛すね肉は圧力鍋がなくても柔らかくできます。
ただし、強火でグツグツ煮続ければよいわけではありません。
肉の大きさをそろえ、煮汁の表面が静かに動く程度の火加減を保ち、時間ではなく肉の状態を見ながら仕上げることが大切です。
私は食品スーパー5社の精肉部門で、約25年間働いてきました。
売場で牛すね肉を販売していると、お客様から「圧力鍋がないと無理ですよね」「何時間煮ても固かったのですが、肉が悪かったのでしょうか」と聞かれることがあります。
詳しく作り方を聞いてみると、肉の品質よりも、火が強すぎたり、肉を小さく切りすぎたり、柔らかくなる直前で加熱を止めたりしているケースが少なくありません。
牛すね肉は、短時間では固いままです。しかし、正しく煮込めば、箸やフォークでほぐせるほど柔らかくなり、スジからは牛すね肉ならではのコクが出ます。
この記事では、圧力鍋を使わず、家庭にある普通の鍋で牛すね肉を柔らかくする方法を詳しく解説します。
肉の選び方や下処理、煮込み時間、火加減、固いままだったときの対処法まで紹介するので、初めて牛すね肉を調理する方も参考にしてください。
牛すね肉は圧力鍋なしでも柔らかくなる

普通の鍋でも時間をかければ十分柔らかくできる
牛すね肉を柔らかくするために、圧力鍋は必須ではありません。
厚手の普通の鍋でも、弱い火で時間をかけて煮込めば、スジがほぐれた食べやすい状態に仕上げられます。
圧力鍋は、鍋の内部へ圧力をかけ、水の沸点を高くして短時間で調理できる道具です。忙しい日に牛すね肉を調理したいときには便利ですが、圧力鍋を使わなければ柔らかくならないわけではありません。
むしろ普通の鍋には、途中で蓋を開け、肉の柔らかさや煮汁の濃さを確認しやすい利点があります。
圧力鍋では、加圧中に肉の状態を確認できません。加圧時間が長すぎると、蓋を開けたときには肉が細かく崩れていたということもあります。
普通の鍋なら、肉の状態を見ながら30分ずつ加熱を延長できます。
初めて牛すね肉を扱う方にとっては、時間がかかっても、普通の鍋のほうが好みの柔らかさへ調整しやすい場合があります。
私自身、家庭で牛すね肉を煮込むときは、急いでいなければ普通の厚手鍋を使います。
鍋から立つ香りや煮汁の変化を確認しながら仕上げられるため、「料理を作っている」という楽しさがあるからです。
時間はかかりますが、難しい調理ではありません。
圧力鍋と普通の鍋では柔らかくなるまでの時間が違う
圧力鍋と普通の鍋の大きな違いは、柔らかくなるまでの時間です。
圧力鍋を使うレシピでは、加圧時間が20~30分程度に設定されていることがあります。
一方、普通の鍋では、同じ大きさの牛すね肉でも2~3時間ほどかかります。肉の大きさや個体差によっては、3時間以上必要になることもあります。
ここで気を付けたいのが、圧力鍋用レシピに書かれた時間を、そのまま普通の鍋へ当てはめないことです。
「圧力鍋で30分なら、普通の鍋でも1時間くらいで十分だろう」と考えて加熱を止めると、スジが硬いまま残る可能性があります。
普通の鍋は、圧力鍋より低い温度でゆっくり加熱します。
その分、スジが食べやすくなるまでに時間がかかりますが、肉の形を残しながら穏やかに仕上げやすいのが特徴です。
圧力鍋を持っていないことを不利に感じる必要はありません。
必要なのは特別な調理器具ではなく、少し長めの時間と、火加減を落ち着いて管理することです。
煮込み時間は2~3時間が目安だが時間だけで判断しない
普通の鍋で牛すね肉を煮込む場合、加熱時間は2~3時間が一つの目安です。
ただし、「3時間煮たから完成」と時間だけで判断するのはおすすめできません。
同じ牛すね肉でも、次の条件によって柔らかくなる時間が変わります。
- 肉一切れの大きさ
- 前すねか後ろすねか
- スジの太さや量
- 牛の品種や月齢
- 鍋の厚さと大きさ
- 煮汁の温度
- 蓋の有無
- 一度に煮込む肉の量
小さめに切った肉は比較的早く火が通りますが、大きな塊は中心まで柔らかくなるのに時間がかかります。
また、同じパックの中でも、スジが少ない肉と太いスジが入った肉では、食べやすくなる時間が違います。
2時間ほど煮たら、肉の中心へ竹串やフォークを刺してみてください。
ほとんど力を入れずに入るなら、柔らかくなっています。強い抵抗があり、肉が串と一緒に持ち上がるようなら、まだ加熱が足りません。
煮汁が減っていないか確認し、必要に応じて湯を足してから、弱火で30分ほど追加加熱しましょう。
牛すね肉は、「時計を見る料理」というより、「肉の変化を見る料理」です。
牛すね肉が固い理由|長く煮込む料理に向いているわけ

牛すね肉はよく動かす部位なので筋肉が発達している
牛すね肉は、牛の脚にある部位です。
牛の大きな体を支え、立ったり歩いたりするときに日常的に使われるため、筋肉がよく発達しています。
運動量の少ない部位に比べて筋繊維がしっかりしており、スジや結合組織も多く含まれています。
そのため、牛すね肉をステーキのように短時間で焼くと、噛み切りにくさを感じます。
これは肉の品質が悪いからではありません。牛すね肉が持つ本来の性質です。
精肉売場では、柔らかい部位ほど価値が高いと思われることがあります。
もちろん、サーロインやヒレには、短時間で焼いて食べられる柔らかさがあります。しかし、牛すね肉には、柔らかい部位にはない濃いうま味と、煮込んだときのコクがあります。
部位には、それぞれ向いている調理法があります。
牛すね肉は、短時間で焼く料理には向きませんが、長時間煮込む料理では主役になれる部位です。
「固い肉を無理に柔らかくする」というより、「煮込むことでおいしくなる肉を、適した方法で調理する」と考えると分かりやすいでしょう。
白い部分は脂だけでなくスジや膜の場合がある
牛すね肉のパックを見ると、赤身の間や表面に白い部分があります。
この白い部分を、すべて脂だと思っている方は少なくありません。
しかし、牛すね肉に見える白い部分には、脂だけでなく、スジや筋膜も含まれています。
脂は温度が上がると溶け、煮汁へコクを加えます。一方、太いスジや膜は、短時間加熱しただけでは噛み切りやすくなりません。
精肉売場で、「白いところが多いから、脂が乗っていて柔らかそうですね」と言われることがあります。
実際には、白い線が赤身を大きく分けるように入っている場合、それは脂ではなく太いスジである可能性があります。
細かな脂と太いスジは、加熱したときの変化が異なります。
脂とスジの見分け方を詳しく知りたい方は、牛切り落としを炒めるとゴムみたいに固い!白い部分が「脂かスジか」を見分ける方法も参考にしてください。
牛すね肉を購入するときは、白い部分があるという理由だけで避ける必要はありません。
むしろ細かなスジが適度に入った肉は、時間をかけて煮込むことで、牛すね肉らしい濃厚な仕上がりになります。
ただし、表面に厚く硬い膜が付いている場合は、調理前に取り除いたほうが食べやすくなります。
長時間の加熱でスジが食べやすく変化する
牛すね肉のスジや結合組織は、加熱を始めてすぐに柔らかくなるわけではありません。
加熱の途中では、筋繊維が縮み、一時的に肉が硬く感じられることがあります。
ここで「加熱しすぎた」と判断して火を止めると、スジが十分に変化していないため、噛み切りにくい状態で完成してしまいます。
さらに弱火で煮込み続けると、硬かった部分が徐々に食べやすくなり、煮汁にはゼラチン質によるとろみとコクが出てきます。
牛すね肉を煮込んだスープが、冷蔵庫の中で煮こごりのように固まることがあります。
これは必ずしも失敗ではありません。温め直せば溶け、口当たりのよい煮汁へ戻ります。
この変化こそ、牛すね肉を使う魅力です。
赤身だけのあっさりした肉では出しにくい濃厚さがあり、カレーやシチューの味に奥行きを加えてくれます。
柔らかい肉と煮崩れた肉は同じではない
牛すね肉は長く煮込む料理に向いていますが、長ければ長いほどおいしくなるとは限りません。
強火で激しく沸騰させ続けると、肉の表面が鍋の中で動き、角から崩れていきます。
見た目は柔らかそうでも、食べると赤身がパサつき、太いスジだけが残っていることがあります。
目指したいのは、表面を崩すことではありません。
肉の形はある程度残っているものの、竹串やフォークが中心まで入り、口の中で無理なくほぐれる状態です。
ビーフシチューなら、スプーンで軽く押したときに割れる程度が一つの目安になります。
カレーの場合も、肉が完全に繊維状へ散ってしまう前に火を止めると、牛すね肉を食べている満足感が残ります。
柔らかさと煮崩れを混同せず、肉の中心とスジの状態を確認することが大切です。
普通の鍋で煮込む前に確認したい牛すね肉の選び方と下処理

赤身とスジのバランスがよい牛すね肉を選ぶ
スーパーで牛すね肉を選ぶときは、赤身の色とスジの入り方を確認してください。
赤身に自然なつやがあり、パックの底に赤い水分が大量にたまっていない肉が選びやすい商品です。
パック内に出ている赤い水分は、血液ではなく、肉から流れ出た水分やたんぱく質などを含むドリップです。
ドリップが多い肉は、保管中や解凍時に水分が抜けている可能性があります。
煮込めば必ずまずくなるわけではありませんが、同じ価格なら、ドリップが少なく肉の表面が乾いていないものを選びましょう。
スジは、まったくない肉を探す必要はありません。
牛すね肉は、スジを含むからこそ煮込んだときにコクが出ます。
ただし、肉の半分近くを厚い膜や大きなスジが占めている商品は、下処理に手間がかかります。
赤身の中に細いスジが入り、食べられる赤身部分もしっかり確保されているものが、家庭では扱いやすいでしょう。
精肉売場で同じ値段のパックが複数並んでいたら、内容量だけで決めず、肉一切れごとの大きさも見てください。
大きさが近い肉を選ぶと、柔らかくなるタイミングがそろいやすくなります。
肉は小さく切りすぎず大きさをそろえる
牛すね肉を早く柔らかくしたいと思い、細かく切る方がいます。
たしかに小さく切れば、中心まで熱は早く伝わります。
しかし、小さすぎる肉は、長時間の煮込みで水分が抜けやすく、形も崩れやすくなります。
完成した料理に肉の存在感を残したいなら、煮込む前の段階で少し大きめに切りましょう。
煮込むと肉は縮むため、完成時に食べたい大きさより一回り大きくするのが基本です。
市販のカレー用牛すね肉がすでに角切りになっている場合は、無理に小さく切り直す必要はありません。
大きな塊で購入した場合は、厚みが極端に違わないように切ります。
すべてを定規で測ったように同じ形にする必要はありませんが、2倍以上の大きさの差があると、小さい肉が崩れた時点でも大きな肉は固いことがあります。
売場では、大きな肉が入っているパックほど豪華に見えます。
ただ、家庭の普通の鍋で煮込むなら、大きさがある程度そろっているパックのほうが失敗しにくいというのが、私の本音です。
取り除くスジと残してよいスジを見分ける
牛すね肉のスジをすべて取り除こうとすると、食べられる赤身まで削ってしまいます。
家庭で取り除きたいのは、肉の表面を広く覆っている厚い膜や、明らかに硬く、包丁でも切りにくい部分です。
肉の内部へ細かく入っているスジは、無理に取り除かなくても構いません。
時間をかけて煮込むことで食べやすくなり、煮汁へコクを加えてくれます。
表面の膜を取るときは、膜の端へ包丁を入れ、膜を少し持ち上げながら刃先を滑らせます。
赤身を大きく削らないよう、包丁の刃を膜側へ向けるのがコツです。
包丁に慣れていない方は、完全にきれいにしようとしないでください。
取れやすい部分だけを取り、残りは煮込んだ後に食べながら避けても大きな問題はありません。
精肉の仕事では、見た目や歩留まりを考えながら丁寧に整形します。
しかし、家庭料理で同じレベルの整形をする必要はありません。
手間をかけすぎて調理が嫌になるより、目立つ硬い部分だけを取って煮込み始めるほうが現実的です。
焼き目を付けると香ばしさと煮汁のコクが増す
下処理を終えた牛すね肉は、表面の水分をキッチンペーパーで拭き取ります。
水分が付いたままだと鍋の温度が下がり、焼くというより蒸したような状態になります。
鍋へ少量の油を入れて熱し、肉を一度に詰め込まず、数回に分けて表面へ焼き色を付けましょう。
肉同士の間に隙間を作ると、水蒸気が逃げやすくなります。
ここでよく聞くのが、「焼き目を付ければ、肉汁を完全に閉じ込められる」という説明です。
実際には、焼いたからといって肉汁が一滴も出なくなるわけではありません。
焼き目を付ける主な目的は、香ばしい風味と、煮汁の味に奥行きを加えることです。
鍋底に茶色く付いた部分も、焦げて真っ黒になっていなければ、うま味の一部です。
水、ワイン、スープなどを少量加え、木べらで鍋底をこそげると煮汁へ生かせます。
和風のあっさりしたスープを作る場合は、下ゆでして表面を洗う方法もあります。
どちらが正解ということではなく、濃厚に仕上げたいなら焼く、澄んだ煮汁にしたいなら下ゆですると使い分けましょう。
圧力鍋なしで牛すね肉を柔らかくする基本の煮込み方

肉の表面を焼いてから水やスープを加える
ここからは、普通の鍋を使った基本的な煮込み方を説明します。
牛すね肉の表面を焼いたら、一度皿へ取り出します。
同じ鍋で玉ねぎ、にんじん、セロリ、にんにくなどの香味野菜を炒めると、肉の香ばしさと野菜の甘みを一つの鍋へ重ねられます。
ビーフシチューなら赤ワインやスープ、カレーなら水やブイヨン、和風煮込みならだしや酒を加えます。
鍋底に焼き付いたうま味を、木べらなどでやさしく溶かしてください。
肉を鍋へ戻し、煮汁を加えます。
このとき、肉が煮汁から大きく出ない量を目安にしましょう。
水分が多すぎると味が薄くなり、後から煮詰めるのに時間がかかります。一方、少なすぎると加熱中に肉が露出し、乾燥や焦げ付きにつながります。
最初から完成時の濃い味にする必要はありません。
長時間煮ると水分が減り、味が濃くなります。塩、しょうゆ、ルウなどは、煮込み後半に調整したほうが失敗しにくくなります。
沸騰したらアクを取り、ごく弱い火へ落とす
煮汁を加えたら、最初は中火で温度を上げます。
表面に泡や灰色のアクが集まってきたら、網じゃくしやおたまで取り除きましょう。
アクを一つ残らず取ろうとすると、脂や煮汁まで捨てることになります。表面へまとまって浮いた部分を取る程度で十分です。
沸騰したら、火を弱めます。
普通の鍋で牛すね肉を煮込むときに最も大切なのは、この火加減です。
鍋全体が激しくグラグラ沸く状態ではなく、煮汁の表面が静かに揺れ、ときどき小さな泡が上がる程度を保ちます。
「弱火にしたのに、まだ激しく沸騰している」という場合は、鍋が大きすぎるか、コンロの火力が強すぎる可能性があります。
最小の火口へ移したり、蓋を少しずらしたりして調整してください。
厚手の鍋は温度変化が穏やかで、長時間の煮込みに向いています。
薄手の鍋しかなくても調理できますが、水分が減りやすく、鍋底が焦げやすいため、途中で何度か確認しましょう。
肉が煮汁から出ないように水分量を管理する
煮込み中に水分が蒸発し、肉の上部が煮汁から出ることがあります。
煮汁に浸かっている部分と空気に触れている部分では、熱の伝わり方や乾燥の程度が変わります。
ときどき肉の上下を返し、できるだけ均一に加熱してください。
水分が大きく減った場合は、水ではなく湯を足します。
少量の水を加えただけで料理が台無しになるわけではありませんが、冷たい水を大量に加えると鍋全体の温度が下がり、再び安定するまで時間がかかります。
落とし蓋も便利です。
肉の上へ煮汁が回りやすくなり、鍋の中で肉が激しく動くのも抑えられます。
落とし蓋がない場合は、中央に穴を開けたクッキングシートで代用できます。
鍋の蓋は、ぴったり閉めると温度が上がりやすく、吹きこぼれる場合があります。
少しずらしておくと、蒸発を抑えながら火加減を確認しやすくなります。
2時間を過ぎたら30分ごとに柔らかさを確認する
肉の大きさにもよりますが、まずは弱火で2時間ほど煮込みます。
途中で何度も肉へ串を刺す必要はありません。
1時間ほどたった段階では、表面は変化していても、中心やスジはまだ硬いことがあります。
2時間を過ぎたあたりで、一番大きな肉へ竹串やフォークを刺してください。
串が途中で止まり、肉が串と一緒に持ち上がるなら、まだ加熱が足りません。
煮汁の量を確認し、弱火のまま30分追加します。
再び確認し、まだ固ければさらに30分延長しましょう。
ここで焦って火力を上げると、赤身部分の水分が抜けやすくなります。
時間を短縮したい気持ちは分かりますが、牛すね肉は、最後の30分で急に食べやすくなることがあります。
私も仕事柄、さまざまな牛すね肉を見てきましたが、見た目が似ていても柔らかくなる時間には差があります。
2時間で十分な肉もあれば、3時間を超えてようやくスジがほどける肉もあります。
レシピの時間はあくまで目安です。最後は鍋の中の肉を見て決めてください。
柔らかくなってから味を整える
牛すね肉が柔らかくなったら、煮汁の味を確認します。
味が薄ければ、塩、しょうゆ、ルウ、デミグラスソースなどを加えて調整します。
味が濃すぎる場合は、湯や塩分を含まないスープを少しずつ加えましょう。
煮汁だけを濃くしたいときは、柔らかくなった肉を一度取り出す方法がおすすめです。
肉を鍋に入れたまま煮詰め続けると、せっかく柔らかくなった赤身が崩れたり、パサついたりすることがあります。
肉を取り出した後、煮汁を好みの濃さまで煮詰め、最後に肉を戻して温めます。
このひと手間だけで、肉の状態とソースの濃さを別々に調整できます。
ビーフシチューで「肉は柔らかいのに、ソースが水っぽい」というときにも使える方法です。
中心まで十分に加熱する
牛すね肉の煮込みは、ローストビーフのように中心を赤く残す料理ではありません。
肉の中心まで十分に加熱し、そのうえで時間をかけて柔らかくします。
食肉の加熱について、厚生労働省は中心部を75℃で1分間加熱すること、または同等の加熱条件を示しています。厚生労働省の「食肉の加熱条件に関するQ&A」では、70℃で3分、65℃で15分なども同等の条件として紹介されています。
家庭の煮込み料理では長時間加熱するため、通常はこの温度帯を十分に通過します。
ただし、大きな冷凍肉をそのまま鍋へ入れたり、途中で何度も加熱を止めたりすると、中心の温度を把握しにくくなります。
心配な場合は、肉の一番厚い部分へ中心温度計を差して確認してください。
中心温度計はローストビーフだけでなく、煮込み料理や鶏肉の加熱確認にも使えます。肉料理をよく作る家庭なら、一つ用意しておいて損のない道具です。
火を止めて煮汁の中で休ませる
牛すね肉が柔らかくなったら、すぐに煮汁から引き上げるのではなく、火を止めてしばらく休ませます。
煮汁の中で温度を落ち着かせると、表面が乾きにくくなります。
その日のうちに食べるなら、味を整えてから少し休ませ、食べる直前にもう一度しっかり温めるとよいでしょう。
翌日に食べる場合は、大きな鍋をコンロの上へ置いたまま一晩放置してはいけません。
カレーやシチューなどの煮込み料理は、冷める途中でウェルシュ菌が増殖する危険があります。
農林水産省は、煮込み料理を保存するときは底の浅い容器や保存袋へ小分けし、できるだけ早く冷まして冷蔵または冷凍するよう案内しています。再加熱時は、鍋底からよく混ぜ、中心まで十分に加熱することも重要です。農林水産省「煮込み料理を楽しむために」
大鍋のままでは中心部分の温度が下がりにくいため、「冬だから大丈夫」「一度沸騰させたから安全」と考えないでください。
おいしさを守るためにも、安全を守るためにも、作り置きは素早く小分けして冷やしましょう。
牛すね肉が柔らかくならない5つの原因と対処法

原因1|煮込み時間が足りていない
牛すね肉を1時間煮て、まだ固いからといって失敗とは限りません。
表面には火が通っていても、内部のスジが食べやすくなるまでには時間がかかります。
特に一切れが大きい肉や、太いスジを含む肉は、2時間を過ぎても硬さが残ることがあります。
煮汁が十分にあり、焦げていないなら、弱火のまま加熱を続けてください。
30分追加したら、再び一番大きな肉へ串を刺します。
この作業を繰り返すことで、加熱しすぎを防ぎながら必要な時間を確保できます。
「固いから加熱しすぎた」と思って火を止める方もいますが、牛すね肉では、まだ加熱が足りていないケースがよくあります。
ただし、赤身が細かく崩れ、繊維がパサパサしているのに太い膜だけが残っている場合は、単純な煮込み不足ではありません。
最初に取り除くべき硬い膜が残っていた可能性もあります。
原因2|強火でグツグツ沸騰させている
早く柔らかくしたいからと火を強くしても、圧力鍋と同じ状態にはなりません。
普通の鍋で火力を上げると、煮汁の蒸発が増え、肉の表面が鍋の中で激しく動きます。
赤身部分は水分を失い、表面から崩れやすくなります。
それでも太いスジがすぐに柔らかくなるわけではありません。
結果として、「肉はパサパサしているのに、スジだけ噛み切れない」という状態になります。
煮汁が沸騰した後は、ごく弱火へ落としましょう。
鍋の表面全体から大きな泡が次々に出るなら、火が強すぎます。
鍋の端から小さな泡がときどき上がり、表面がゆっくり動く程度で十分です。
原因3|肉が大きすぎる、または大きさがそろっていない
大きな牛すね肉は、ごちそう感があります。
しかし、普通の鍋で調理する場合、極端に大きい塊は柔らかくなるまで時間がかかります。
反対に、小さな肉は早く柔らかくなり、その後も加熱を続けると崩れてしまいます。
大きな肉だけが固く、小さな肉がすでに柔らかくなっている場合は、柔らかい肉から順番に取り出してください。
すべての肉が柔らかくなるまで、小さい肉を鍋へ残す必要はありません。
大きな肉へ火が通ったら、取り出しておいた肉を最後に戻して温めます。
次回からは、調理前に肉の厚みをある程度そろえておくと、仕上がりの差を抑えられます。
原因4|煮汁が減り、肉の一部が乾いている
長時間煮込んでいると、気付かないうちに煮汁が減ります。
鍋底に近い肉は煮汁へ浸かっているのに、上の肉は半分以上露出していることもあります。
煮汁から出た部分は乾きやすく、加熱も均一になりません。
30分に一度程度は鍋の状態を確認し、肉の上下を返してください。
水分が減っていたら湯を足し、肉へ煮汁が回るようにします。
焦げ付きが始まっている場合は、鍋底を強くこすって混ぜないでください。
焦げた風味が煮汁全体へ広がります。
焦げていない上の部分だけを別の鍋へ移し、新しい煮汁を少量加えて調理を続けたほうが、被害を抑えられます。
原因5|柔らかくなった肉を煮込み続けている
牛すね肉は長時間煮込む料理に向いていますが、柔らかくなった後も何時間も加熱する必要はありません。
竹串が抵抗なく入り、スプーンで押すとほぐれる状態になったら、肉はほぼ完成です。
ソースがまだ薄いという理由で煮込み続けると、肉の赤身部分が細かく崩れ、食感が悪くなることがあります。
柔らかくなった肉は取り出し、煮汁だけを煮詰めましょう。
ソースが好みの濃さになったら肉を戻し、全体を温めます。
この方法を知っているだけで、「肉を柔らかくしたい時間」と「ソースを濃くしたい時間」を分けられます。
私も牛すね肉を調理するときは、肉とソースを別々に確認します。
一つの鍋で作る料理だからといって、最後まですべての材料を入れ続けなければならないわけではありません。
牛すね肉の煮込みでよくある疑問

牛すね肉は下ゆでが必要?
牛すね肉は、必ず下ゆでしなければならない部位ではありません。
濃厚なビーフシチューやカレーを作るなら、表面を焼いてから煮込み、最初に出たアクを取る方法で十分です。
肉の焼き目や鍋底のうま味を生かせるため、コクのある仕上がりになります。
透明感のあるスープや、すっきりした和風煮込みにしたい場合は、短時間下ゆでして表面を洗う方法があります。
下ゆでによって余分なアクや汚れを取り除けますが、長くゆですぎるとうま味も湯へ流れます。
一度沸騰させて表面の色が変わったら、湯を捨て、肉をぬるま湯で軽く洗う程度でよいでしょう。
下ゆでするかどうかは、肉の良し悪しではなく、作りたい料理の方向で決めてください。
蓋はしたほうがいい?
牛すね肉を長時間煮込む場合、蓋を使うと水分の蒸発を抑えられます。
ただし、蓋を完全に閉めると鍋の中が激しく沸騰しやすく、吹きこぼれることがあります。
最初は蓋を少しずらし、煮汁の状態を確認しながら調整するのがおすすめです。
鍋と蓋の間に少し隙間を作れば、適度に蒸気を逃がしながら温度を保てます。
煮汁が薄く、最後に濃度を付けたいときは、肉が柔らかくなってから蓋を外します。
肉を取り出し、煮汁だけを加熱すれば、肉の状態を守りながら味を濃くできます。
冷凍の牛すね肉をそのまま煮込んでもいい?
冷凍した牛すね肉は、冷蔵庫で解凍してから調理するのが基本です。
凍ったまま鍋へ入れると、表面へ焼き色を付けにくく、肉の中心と外側で温度差が大きくなります。
塊がくっついている場合は、一切れずつ分けることもできません。
使用する前日から冷蔵庫へ移し、低温でゆっくり解凍しましょう。
解凍後に出たドリップは、キッチンペーパーで丁寧に拭き取ります。
室温へ長時間置いて解凍する方法は、肉の表面温度が上がりやすいためおすすめできません。
農林水産省も、生鮮食品は冷蔵庫内、電子レンジ、流水などで解凍し、暖かい部屋での自然解凍を避けるよう案内しています。農林水産省「食中毒予防の基本」
翌日に固くなった牛すね肉は戻せる?
冷蔵庫から出した牛すね肉が固く見えても、すぐに失敗と判断する必要はありません。
煮汁に含まれる脂やゼラチン質は、冷えると固まります。
煮汁がゼリー状になっていたり、肉の表面に白い脂が付いていたりしても、温めると再び溶けます。
鍋へ移し、必要に応じて少量の水やスープを加え、底からよく混ぜながら温め直してください。
温まっても中心のスジが固い場合は、前日の煮込み時間が足りなかった可能性があります。
煮汁を補い、ごく弱火で30分ほど追加加熱します。
保存した煮込み料理を温め直すときは、表面だけを温めて終わらせず、鍋底から混ぜて全体を十分に加熱することが重要です。
電子レンジを使う場合も、途中で一度取り出して混ぜ、加熱ムラを防いでください。
普通の鍋に向いているおすすめ料理は?
初めて牛すね肉を煮込むなら、ビーフシチューやカレーが作りやすいでしょう。
多少肉が崩れても料理になじみ、煮汁へ出たうま味を無駄なく食べられます。
赤ワイン煮は、牛すね肉の濃い味を楽しみたい方に向いています。
赤ワインの酸味と香りが加わることで、家庭料理でもごちそう感のある一皿になります。
しょうゆ、酒、砂糖、しょうがなどを使った和風煮込みもおすすめです。
大根やごぼう、こんにゃくなどと合わせれば、ご飯に合う味になります。
あっさり食べたい場合は、玉ねぎ、にんじん、セロリなどと一緒にスープ煮にしてもよいでしょう。
牛すね肉のうま味がスープへ出るため、市販の調味料を大量に使わなくても味に深みが出ます。
料理を選ぶときは、「どのレシピが一番柔らかくなるか」だけで考えなくても構いません。
基本となる弱火と煮込み時間を守れば、さまざまな味付けへ応用できます。
まとめ|牛すね肉は普通の鍋でも弱火でじっくり煮れば柔らかくなる

牛すね肉は、圧力鍋を使わなくても柔らかくできます。
普通の鍋で調理する場合は、次のポイントを意識してください。
- 赤身とスジのバランスがよい肉を選ぶ
- 肉の大きさをそろえ、小さく切りすぎない
- 表面の厚く硬い膜だけを取り除く
- 焼き目を付けて香ばしさを加える
- 沸騰後はごく弱火へ落とす
- 肉が煮汁から出ないようにする
- 2時間を過ぎたら30分ごとに柔らかさを確認する
- 固い場合も火力を上げず、弱火のまま追加加熱する
- 肉が柔らかくなったら取り出し、煮汁だけを仕上げる
- 作り置きは小分けして早く冷まし、冷蔵または冷凍する
煮込み時間は2~3時間が目安ですが、肉の大きさやスジの量によっては、それ以上かかることもあります。
レシピに書かれた時間だけを見るのではなく、竹串やフォークを刺して、肉の中心とスジの状態を確認してください。
牛すね肉は、すぐに結果が出る部位ではありません。
1時間煮た時点では、「本当に柔らかくなるのだろうか」と不安になることがあります。
しかし、そこから弱火で煮込み続けると、硬かったスジが食べやすくなり、煮汁へ濃厚なうま味が加わります。
精肉売場では、牛すね肉が特売になっていても、「調理が難しそう」という理由で避けられることがあります。
精肉に約25年間携わってきた私から見ると、それは少しもったいないと感じます。
確かに、短時間で焼いて食べられる肉ではありません。
それでも、火加減と水分量を確認しながらゆっくり煮れば、特別な調理器具がなくても、家族に喜ばれる煮込み料理を作れます。
圧力鍋を持っていないからと諦めず、時間に余裕のある日に、普通の鍋で牛すね肉のおいしさを引き出してみてください。


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