スーパーで牛ももステーキを買い、楽しみに焼いてみたら、肉がパサパサになってしまった。
「見た目はきれいな赤身だったのに固い」
「サーロインと同じように焼いたのに、なぜかおいしくならない」
「噛むほど口の中の水分を持っていかれる」
このような経験はないでしょうか。
牛もも肉は脂が少なく、赤身の濃い味を楽しめる部位です。サーロインより手頃な価格で売られていることも多く、脂っこいステーキが苦手な方にも選ばれています。
ただし、サーロインとまったく同じ感覚で焼くと、パサパサになりやすい肉でもあります。
私は食品スーパー5社の精肉部門で、約25年間働いてきました。牛肉の整形、スライス、ステーキ用商品の加工、売場づくりなどを経験するなかで、お客様から「モモステーキが固かった」と相談されたことが何度もあります。
詳しく話を聞くと、肉そのものだけでなく、焼き方や切り方に原因があるケースが少なくありませんでした。
牛ももステーキがパサパサになる主な原因は、次の3つです。
- 脂の少ない肉を強火で長く焼いている
- 冷たい・濡れた・厚さの違う肉をそのまま焼いている
- 焼いてすぐ切り、繊維に沿って食べている
この記事では、牛もも肉とサーロインの違い、スーパーでの選び方、フライパンでしっとり焼く手順、焼きすぎたときの救済方法まで詳しく解説します。
高価な道具や特別な調味料は必要ありません。
牛もも肉の特徴を理解し、「焼きすぎない・休ませる・繊維を断つ」の3点を意識するだけでも、仕上がりは大きく変わります。
牛ももステーキがパサパサになる理由|サーロインとの違い

牛もも肉とサーロインは、どちらもステーキ用として販売されています。
そのため、「同じステーキ肉なら、同じ焼き方でよい」と思うかもしれません。
しかし、脂の入り方、肉の繊維、スジの量が違うため、焼きすぎたときの食感にも差が出ます。
まずは、それぞれの特徴を確認してみましょう。
牛もも肉は脂が少なく赤身の割合が多い
牛のモモは、後ろ脚周辺にある大きな部位です。
牛が立ったり歩いたりするときによく動かすため、サーロインに比べると脂が少なく、筋肉の繊維がしっかりしています。
牛肉らしい濃い味を感じやすく、脂が少ないので、ステーキを一枚食べても比較的重くなりにくいのが魅力です。
一方で、加熱しすぎると筋繊維が強く縮み、肉の中の水分が外へ出やすくなります。
サーロインのような豊富な脂がないため、抜けた水分を脂の口当たりで補いにくいのです。
その結果、肉全体が締まり、噛んだときに水分の少ないパサパサした食感になります。
「赤身が多いから、しっかり焼いてもさっぱり食べられる」と考える人もいますが、実際は逆です。
赤身が多い肉ほど、火を通しすぎたときの影響が分かりやすく出ます。
サーロインは脂がパサつきを目立ちにくくしてくれる
サーロインは、腰の上部に位置する部位です。
肉のきめが比較的細かく、商品によっては赤身の中に細かなサシが入っています。外側に厚い脂が付いていることもあります。
この脂は、加熱すると溶けてコクや香りにつながります。
少し火を入れすぎた場合でも、脂の滑らかな口当たりが残るため、牛もも肉ほどパサつきを感じないことがあります。
もちろん、サーロインも焼きすぎれば固くなります。
ただ、焼き方の失敗を脂がある程度目立ちにくくしてくれるのです。
牛もも肉には、その余裕があまりありません。
サーロインを焼くときと同じ時間、同じ強火で加熱すると、牛もも肉だけが水分を失い、固く感じられることがあります。
焼き方の基本は同じでも火を入れる時間が違う
牛もも肉もサーロインも、ステーキの基本的な流れは同じです。
表面の水分を拭き、フライパンで焼き色を付け、中心へ火を入れ、最後に休ませます。
「牛もも肉はサーロインとまったく逆の焼き方をする」という意味ではありません。
違うのは、強火を使う時間と、火を止める判断です。
牛もも肉は脂が少ないため、中心まで完璧に火を通そうとしてフライパンの上に置き続けると、表面から水分が抜けていきます。
焼き上がってからも余熱で火が進むため、フライパンの上で理想の状態に仕上げようとすると、食べるときには加熱しすぎになりがちです。
私も売場で、お客様から「サーロインは上手に焼けたのに、モモは同じように焼いたら固かった」と相談されたことがあります。
肉の厚さを聞くと、牛もも肉のほうが薄いのに、サーロインと同じ時間焼いていたケースもありました。
部位だけでなく、肉の厚さや脂の量に合わせて焼き時間を変えることが大切です。
牛ももステーキがパサパサになる3つの原因

牛ももステーキがパサパサになったとき、すぐに「安い肉だったから仕方がない」と考える必要はありません。
もちろん、同じ牛もも肉でも肉質やスジの量には違いがあります。
しかし、売場では柔らかそうに見えた肉が家庭で固くなる場合は、焼き方や切り方も確認してみてください。
原因1|脂が少ないのに強火で長く焼きすぎている
最も多い原因は、単純な焼きすぎです。
ステーキの焼き方では、「フライパンをしっかり熱して、強火で焼く」と説明されることがあります。
この方法自体が間違いなのではありません。
問題は、焼き色を付けた後も強火のまま加熱し続けることです。
強火を使う目的は、肉の表面へ短時間で香ばしい焼き色を付けることです。中心まで強火だけで仕上げることではありません。
牛もも肉をフライパンへ入れると、最初は肉汁がほとんど見えません。
しかし、加熱を続けると、肉の表面へ赤い水分が浮いたり、フライパンの底へ肉汁が流れたりします。
さらに焼き続けると、その水分が蒸発し、肉が急に締まります。
この状態になってから火を止めても、抜けた水分は元へ戻りません。
「肉汁がたくさん出ているから、ジューシーに焼けている」と思うかもしれませんが、フライパンに流れ出た肉汁は、肉の中から失われた水分でもあります。
牛もも肉は、サーロインほど脂が多くありません。
少し焼きすぎただけでも、口の中で感じる水分が大きく減ります。
特に注意したいのが、「念のため、もう少し焼いておこう」という追加加熱です。
片面を焼き、裏返して焼き、火を止めようとしたところで不安になり、さらに両面を焼く。これを繰り返すと、中心の安全を確保する前に、薄い部分や外側が加熱されすぎます。
焼き色を付けた後は火を弱め、肉の厚さを見ながら短い間隔で状態を確認してください。
原因2|冷たい・濡れた・厚さの違う肉をそのまま焼いている
冷蔵庫から出した牛もも肉を、パックから直接フライパンへ入れていないでしょうか。
肉が冷たすぎると、表面と中心に大きな温度差があります。
表面は焼けているのに中心が冷たいままなので、中心を温めようとして加熱時間が長くなります。その間に、表面や薄い部分の水分が抜けます。
ただし、「完全に常温になるまで長時間置く」必要はありません。
肉を長く室温へ放置するのは、安全面からおすすめできません。調理器具や付け合わせを準備する間に冷蔵庫から出し、極端な温度差を少しやわらげる程度で十分です。
次に確認したいのが、肉の表面に付いた水分です。
パックの中で出たドリップや結露が肉に付いたままだと、フライパンへ入れた瞬間に水蒸気が発生します。
すると、肉を焼くというより、表面を蒸すような状態になります。
香ばしい焼き色が付かないため、「まだ焼けていない」と考えて加熱を続け、結果的に中心まで火が入りすぎます。
パックから取り出したら、肉の表面をキッチンペーパーで軽く押さえてください。
強くこする必要はありません。
表面の余分な水分を取るだけで、短時間でも焼き色が付きやすくなります。
厚さの違いも重要です。
一枚のステーキでも、中央は厚く、端は薄いことがあります。端の一部が細く伸びている商品もあります。
厚い部分に合わせて焼けば、薄い部分はパサパサになります。
反対に、薄い部分に合わせれば、厚い部分の中心が冷たいまま残る可能性があります。
購入するときは、重さや大きさだけでなく、端から端まで厚さがおおむねそろっている肉を選びましょう。
原因3|焼いてすぐ切り、繊維に沿って食べている
牛ももステーキは、焼き終わってすぐ切ると肉汁が流れやすくなります。
焼きたての肉を見ると、すぐにナイフを入れたくなります。
しかし、加熱直後は肉の中の温度差が大きく、肉汁も動きやすい状態です。
このときに切ると、切り口から水分が皿へ流れます。
肉汁が流れた後の牛もも肉は、さらにパサついて感じられます。
フライパンから取り出したら、肉の厚さに応じて数分休ませてください。
休ませている間にも余熱で火が入ります。
そのため、フライパンでは理想の焼き加減になる少し前に取り出すのがポイントです。
もう一つ大切なのが、肉を切る方向です。
牛もも肉は、筋肉の繊維が一定方向へ伸びていることがあります。
この繊維に沿って切ると、一口の中に長い繊維が残ります。噛んでもなかなか切れず、肉が固く感じられます。
肉自体の水分量が同じでも、噛む回数が増えることで、口の中ではパサついた印象になりやすいのです。
焼く前に、肉の表面をよく見てください。
細い線が同じ方向へ走っていれば、それが繊維の目安です。
焼き上がったら、その線を短く断つように、繊維に対して直角に近い方向へ切ります。
牛もも肉は厚い一口サイズで食べるより、少し薄めに切ったほうが、赤身の味を楽しみながら噛みやすくなります。
スーパーで失敗しない牛ももステーキ肉の選び方

焼き方を工夫しても、太いスジが多い肉や厚さが極端に違う肉は、食感をそろえるのが難しくなります。
牛ももステーキをおいしく焼くためには、スーパーでの選び方も大切です。
「牛もも」だけでなく詳しい部位名を見る
ひと口に牛もも肉といっても、一つの均一な部位ではありません。
内モモ、外モモ、シンタマ、ランプなど、複数の部位が含まれます。
店によっては、これらをまとめて「牛ももステーキ用」と表示していることがあります。詳しい部位名まで表示する店もあります。
一般的には、ランプやシンタマの一部など、比較的きめが細かく、太いスジが少ない部分はステーキに使いやすい傾向があります。
内モモは大きな赤身の部位ですが、切り出す位置によっては筋繊維がしっかりしています。外モモは運動量が多く、部分によってはスジや硬さを感じやすい部位です。
ただし、部位名だけで柔らかさを完全に判断することはできません。
同じ部位でも、牛の個体、切り出す位置、肉の厚さ、熟成状態によって食感は変わります。
分からない場合は、売場の精肉担当者へ聞いてみてください。
「この中で一番高い肉はどれですか」ではなく、「脂の少ないステーキが食べたいのですが、柔らかく焼きやすいのはどれですか」と聞くと、希望に合う商品を提案してもらいやすくなります。
厚さがそろい、端だけ薄くない肉を選ぶ
ステーキ肉は、大きさより厚さの均一さを確認します。
面積が大きく立派に見える肉でも、薄く広げられていれば、表面へ焼き色が付く前に中心まで火が入ります。
反対に、厚さがあっても、片側だけ極端に薄ければ焼きムラが出ます。
パックを正面から見るだけでなく、透明なトレーの横からも確認してください。
肉の中央と端で、厚さに大きな差がないものが焼きやすい商品です。
二枚入りのパックでは、一枚目と二枚目の厚さが違うこともあります。
同じフライパンで同じ時間焼くなら、できるだけ厚さの近い肉が入ったパックを選びましょう。
ドリップ・乾燥・スジの入り方を見る
トレーの底に赤い液体が大量にたまっていないか確認します。
この液体は一般にドリップと呼ばれます。すべてが血液というわけではなく、肉から出た水分などが含まれています。
ドリップが多い肉は、焼いたときにも水分が出やすくなります。
同じ商品が複数並んでいるなら、ドリップの少ないパックを選ぶのが基本です。
肉の表面には、自然なツヤがあるかも見てください。
端が乾いて硬そうに見える肉や、表面がカサついている肉は、加工後に時間がたっている可能性があります。
ただし、牛肉の色だけで鮮度を断定してはいけません。
肉は空気への触れ方や重なり方によって、赤色や暗い赤紫色に見えます。赤さだけではなく、ドリップ、乾燥、消費期限、包装の状態を合わせて判断します。
白い部分も確認しましょう。
赤身の中へ細かく入る白い部分は脂の可能性がありますが、肉を端から端まで横切る太い白い線は、スジの場合があります。
表面に半透明の膜が広く付いている場合は、筋膜かもしれません。
短時間で焼くステーキでは、太いスジや筋膜が多い肉は噛み切りにくくなります。
牛肉の白い部分を詳しく見分けたい方は、関連記事の「牛切り落としを炒めるとゴムみたいに固い!白い部分が『脂かスジか』を見分ける方法」も参考にしてください。
切り落としの記事ですが、脂・スジ・筋膜を見る基本はステーキ肉にも応用できます。
フライパンで牛ももステーキをしっとり焼く正しい手順

ここからは、牛ももステーキをフライパンで焼く手順を説明します。
焼き時間は、肉の厚さ、重さ、フライパンの材質、火力、冷蔵庫から出したときの温度によって変わります。
「片面を必ず何分」と決めつけず、焼き色、肉の厚さ、弾力を見ながら調整してください。
手順1|表面のドリップを拭き、厚さを確認する
牛もも肉をパックから出し、清潔な皿やバットへ置きます。
表面に付いた水分を、キッチンペーパーで軽く押さえます。
肉を水で洗う必要はありません。
水で洗うと周囲へ水しぶきが飛び、生肉に付いていたものをシンクや調理器具へ広げる可能性があります。
次に、肉の厚さと形を確認します。
端に極端に薄い部分があれば、内側へ軽く折り込む方法があります。太いスジが肉の端に付いている場合は、包丁の先で数か所切り込みを入れます。
スジを完全に取り除こうとして、食べられる赤身まで大きく削る必要はありません。
同時に、肉の繊維がどちらへ伸びているかも見ておきます。
焼くと表面の模様が分かりにくくなるため、生の状態で繊維の方向を覚えておくと、最後に切りやすくなります。
冷蔵庫から出したばかりで非常に冷たい場合は、調理器具や付け合わせを準備する間だけ待ちます。
完全に室温へ戻す必要はなく、長時間放置もしないでください。
手順2|塩は焼く直前を基本にする
家庭で失敗を減らすなら、塩は焼く直前に振る方法が分かりやすいでしょう。
塩を振った肉を長く置くと、表面へ水分が出ることがあります。
その水分を拭かずに焼くと、焼き色が付きにくくなります。
肉の両面へ塩を薄く振り、すぐフライパンへ入れます。
市販のステーキソースを使う場合は、ソースにも塩分があります。最初から塩を多く振りすぎないようにしてください。
コショウは、焼く前でも焼いた後でも構いません。
強火で焼くと焦げやすいため、コショウの香りと見た目をきれいに残したい場合は、仕上げに振る方法もあります。
牛もも肉を柔らかくしようとして、フォークで全体へ大量の穴を開ける人もいます。
太いスジを断つ目的で必要な場所へ切り込みを入れるのは有効ですが、やみくもに穴を開ける必要はありません。
まずは焼きすぎを防ぐことを優先してください。
手順3|温めたフライパンで表面へ短時間で焼き色を付ける
フライパンを温め、少量の油を入れます。
牛もも肉は脂が少ないため、油をまったく使わないと表面がフライパンへ付きやすくなります。
ただし、大量の油で揚げるように焼く必要はありません。
油がなじんだら、牛もも肉を入れます。
肉を入れた直後は、何度も動かさないでください。
表面がフライパンへ触れている時間を作ることで、香ばしい焼き色が付きます。
ここで重要なのは、強火を長く続けないことです。
表面へ焼き色を付ける時間と、中心へ火を入れる時間を分けて考えます。
片面に焼き色が付いたら裏返し、反対側にも焼き色を付けます。
肉を持ち上げて何度も確認すると、フライパンの温度が下がり、焼き時間が長くなります。
一度目安を決めたら、表面がフライパンから自然にはがれやすくなるまで待ちましょう。
ニンニクやバターを使う場合も、最初から強火へ入れっぱなしにすると焦げます。
ニンニクは先に油へ香りを移して取り出すか、火を弱めてから加えます。バターは仕上げに加え、溶けたものをスプーンで肉へかけると香りを付けやすくなります。
バターはコクを加えてくれますが、牛もも肉の焼きすぎを元に戻すものではありません。
手順4|火を弱めて中心へ穏やかに熱を入れる
両面に焼き色が付いたら、火を弱めます。
ここからは、表面を焦がさずに中心へ熱を移す工程です。
厚さが1.5〜2cm程度の牛ももステーキなら、焼き色を付けた後は短い間隔で状態を見ます。最初から「片面3分ずつ」などと固定せず、肉の厚さと火力に合わせてください。
肉の側面を見ると、下から少しずつ色が変わっていくのが分かります。
トングや菜箸で軽く触れ、弾力を見る方法もあります。加熱が進むほど肉は締まり、押し返す感触が強くなります。
ただし、感触だけで正確な中心温度を判断するには経験が必要です。
失敗を減らしたい場合は、中心温度計を使う方法が確実です。肉の最も厚い部分へ横から差し込み、中心付近の温度を確認します。
焼き加減は好みだけでなく、食べる人にも合わせてください。
小さな子ども、高齢者、妊娠中の方、体調や免疫機能に不安がある方が食べる場合は、見た目の赤さより安全な加熱を優先します。
また、「成形肉」「結着肉」「筋切り処理」などの表示がある商品は、一般的な一枚肉のステーキと扱いが異なります。パッケージの注意表示に従い、中心まで十分に加熱してください。
手順5|少し早めに取り出して休ませる
牛もも肉は、フライパンの上で理想の焼き加減まで仕上げないことがポイントです。
肉はフライパンから下ろした後も、表面に残った熱によって中心の温度が上がります。
この余熱を考えず、中心が完全に仕上がるまで焼き続けると、休ませている間に加熱が進みすぎます。
「あと少し火を入れたい」と感じる段階で取り出し、清潔な皿やバットへ移します。
肉の厚さに応じて数分休ませます。
薄いステーキなら長時間休ませる必要はありません。厚みのある肉は、少し長めに休ませます。
アルミホイルを使う場合は、ぴったりと密閉しすぎないようにしてください。
密閉すると蒸気がこもり、せっかく焼いた表面が湿ってしまいます。上からふんわりかける程度にします。
休ませている間に皿へ少量の肉汁が出ることがあります。
まったく肉汁を出さないことを目指す必要はありません。焼き上がり直後に切って大量に流出させないことが大切です。
手順6|繊維を断つ方向へ薄めに切る
休ませた牛ももステーキを、まな板へ移します。
生の状態で確認した繊維の方向を思い出してください。
繊維が左右へ伸びているなら、包丁は上下方向へ入れます。長い繊維を短く断ち切るように切るのがポイントです。
包丁はよく切れるものを使い、肉を強く押しつぶさないようにします。
厚く切るほど肉らしい食べ応えは出ますが、牛もも肉では噛み切りにくくなることがあります。
少し斜めに包丁を入れ、薄めに切ると、断面を広く見せながら繊維を短くできます。
切り方で肉の水分が増えるわけではありません。
しかし、噛み切るまでの回数が減るため、同じ肉でも柔らかく、しっとり感じやすくなります。
焼き方だけを変えても固さが残る場合は、最後の切り方まで見直してみてください。
焼きすぎた牛ももステーキをおいしく食べる救済方法

牛ももステーキを焼きすぎてしまっても、すぐに失敗だと諦める必要はありません。
抜けた水分を完全に元へ戻すことはできませんが、切り方や食べ方を変えることで、パサつきを感じにくくできます。
繊維を断って薄く切る
まず、肉の繊維を確認し、繊維に対して直角に近い方向へ薄く切ります。
一口サイズの角切りにすると、長い繊維が残る場合があります。
薄いそぎ切りにすれば、一口の中に残る繊維が短くなり、噛み切りやすくなります。
焼きすぎた肉ほど、厚いまま出すより、最初から食べやすく切って盛り付けたほうがよいでしょう。
切った肉をフライパンへ戻して長く加熱してはいけません。
温め直す場合は、ソースを温めてから火を止め、その中へ肉を短時間だけ入れる程度にします。
水分と油分のあるソースを合わせる
パサついた牛もも肉には、水分と油分のあるソースが合います。
例えば、次のようなソースです。
- すりおろし玉ねぎとしょうゆのソース
- 大根おろしとポン酢
- バターしょうゆ
- キノコ入りのクリームソース
- 赤ワインを使ったソース
- オリーブオイルを加えた香味野菜ソース
ソースをかけても、肉から抜けた水分が内部へ戻るわけではありません。
それでも、口の中でソースの水分や油分が加わるため、食べやすさは大きく変わります。
脂を控えたい場合は、大根おろしや玉ねぎを使ったソースが合わせやすいでしょう。
赤身の味を消したくない場合は、塩、レモン、オリーブオイルを少量合わせるだけでも構いません。
翌日は別の料理に作り替える
食べ切れなかった牛ももステーキは、翌日に別の料理へ作り替えられます。
薄切りにしてサンドイッチへ挟んだり、サラダや丼へ載せたりすれば、野菜やソースの水分と一緒に食べられます。
細切りにしてガーリックライスへ加える方法もあります。
ただし、最初から肉を炒め直すと、さらに固くなります。
ご飯や野菜を先に仕上げ、火を止める直前に牛肉を加えて温める程度にしてください。
細かく刻み、キノコや玉ねぎと合わせてソースの具にする方法もあります。
固いステーキを長時間煮込めば、必ず柔らかくなるわけではありません。脂の少ない牛もも肉は、煮込み続けてもサーロインやバラ肉のようなトロトロの食感にはなりにくいものです。
焼きすぎた肉は、「もう一度火を入れて柔らかくする」より、「薄く切り、水分のある料理へ組み合わせる」と考えたほうが救済しやすくなります。
牛ももステーキについてよくある疑問

牛ももステーキについて、売場や家庭で迷いやすいポイントをまとめました。
柔らかくする裏ワザを試す前に、焼きすぎていないか、繊維を断っているかを確認してください。
牛もも肉は完全に常温へ戻してから焼くべき?
完全に室温と同じ温度になるまで、長時間置く必要はありません。
厚みのある肉は、短時間置いただけで中心まで室温になるわけではありません。それを待って長時間放置すれば、安全面の心配が増えます。
冷蔵庫から出したら、表面の水分を拭き、付け合わせやフライパンを準備します。その間に極端な冷たさを少しやわらげる程度で十分です。
暑い季節や室温の高いキッチンでは、特に長時間放置しないでください。
フォークで穴を開ければ柔らかくなる?
フォークや肉たたきでスジを断てば、噛み切りやすくなる場合があります。
ただし、牛もも肉全体へ無数の穴を開ければ、必ずジューシーになるわけではありません。
筋繊維を細かく傷つけすぎると、肉らしい食感を損なうことがあります。
目立つスジや筋膜がある場合は、その部分へ数か所切り込みを入れる程度から試してください。
肉の内部まで刃を入れた商品や筋切り処理された商品は、パッケージの表示に従って中心まで十分に加熱します。
玉ねぎやキウイへ漬けると柔らかくなる?
すりおろした玉ねぎ、キウイ、パイナップルなどへ肉を漬ける方法があります。
一定の効果を感じる場合はありますが、どの肉も必ず理想的な柔らかさになる方法ではありません。
特にキウイやパイナップルは、量や時間によって肉の表面が柔らかくなりすぎることがあります。表面だけが崩れ、中の繊維は残っているような不自然な食感になる場合もあります。
果物や玉ねぎの味も肉へ移ります。
私は、牛ももステーキ本来の赤身の味を楽しみたいなら、最初から漬け込みへ頼りすぎないほうがよいと考えています。
まずは、厚さのそろった肉を選び、焼きすぎず、休ませてから繊維を断って切ってみてください。
そのうえで肉質がしっかりしている場合に、漬け込みを補助的に使うのがおすすめです。
牛脂やバターを使えばジューシーになる?
牛脂やバターを使うと、赤身の牛もも肉へコクと香りを加えられます。
表面へ油分が加わるため、口当たりも滑らかになります。
ただし、焼きすぎて抜けた水分が、牛脂やバターによって肉の内部へ戻るわけではありません。
牛脂を使って強火で長く焼けば、表面は脂っぽいのに、中はパサパサという状態になることもあります。
牛脂は焼き油として少量使い、バターは火を弱めてから仕上げに加えるのがおすすめです。
脂を加えることより、肉から水分を出しすぎないことを優先してください。
ミディアムレアなら必ず柔らかくなる?
中心に赤みを残せば、どの牛もも肉でも柔らかくなるとは限りません。
太いスジや筋膜がある肉は、赤みが残っていても噛み切りにくい場合があります。
繊維に沿って厚く切れば、焼き加減がよくても固く感じます。
反対に、安全に十分配慮して中心まで加熱した肉でも、厚さをそろえ、加熱しすぎず、繊維を断って薄く切れば食べやすくなります。
「赤ければ柔らかい」「よく焼けば必ず固い」と単純に考えないことが大切です。
部位、スジ、厚さ、火入れ、休ませ方、切る方向をまとめて考えましょう。
牛もも肉を買ったものの、ステーキにする自信がないときは?
無理に一枚のステーキとして焼く必要はありません。
繊維を断つ方向へ細切りにし、片栗粉を薄くまぶして短時間で炒める方法があります。薄くそぎ切りにして焼肉風にしても食べやすくなります。
「ステーキ用」と書かれていても、ステーキ以外の料理に使ってはいけないわけではありません。
牛もも肉の厚さやスジを見て、家庭で扱いやすい形へ変えて構いません。
短時間で牛肉料理を作りたい場合は、最初からこま切れや切り落としを選ぶ方法もあります。違いが分からない方は、「牛こま切れと切り落とし、どっちが柔らかい?精肉担当が『当たりパック』の見分け方まで解説」も参考にしてください。
まとめ|牛ももステーキは「焼きすぎない・休ませる・繊維を断つ」

牛ももステーキがパサパサになるのは、肉の値段や品質だけが原因ではありません。
牛もも肉はサーロインより脂が少なく、赤身の割合が多い部位です。そのため、同じ火力と時間で焼くと、水分が抜けた食感になりやすいのです。
主な原因は、次の3つです。
- 脂が少ないのに強火で長く焼きすぎている
- 冷たい・濡れた・厚さの違う肉をそのまま焼いている
- 焼いてすぐ切り、繊維に沿って食べている
焼く前には表面のドリップを拭き、肉の厚さと繊維の方向を確認します。
フライパンでは表面へ短時間で焼き色を付け、その後は火を弱めて中心へ穏やかに熱を入れてください。
理想の焼き加減になる少し前に取り出し、数分休ませます。最後に繊維を断つ方向へ薄めに切れば、牛もも肉の食べやすさは大きく変わります。
焼きすぎた場合も、すぐに捨てたり、失敗だと諦めたりする必要はありません。
繊維を断って薄く切り、水分のあるソースを合わせれば食べやすくなります。残った肉は、サンドイッチ、サラダ、丼、ガーリックライスなどへ作り替えられます。
私も約25年間、精肉売場でさまざまな牛肉を扱ってきましたが、高い肉を買った人が必ず満足するとは限りません。
その肉の特徴を知り、料理に合った扱いをした人のほうが、手頃な牛肉でもおいしく食べられます。
牛もも肉は、サーロインの安い代用品ではありません。
脂に頼らず、赤身の濃い味を楽しめる、別の魅力を持ったステーキ肉です。
次に牛ももステーキを焼くときは、サーロインより少し早く火から下ろしてみてください。
焼きすぎず、休ませ、繊維を断って切る。
その3点を守るだけでも、「パサパサで固いステーキ」は、「赤身の味がおいしいステーキ」へ近づきます。


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