スーパーでローストビーフ用の牛肉を探したものの、いつも売場に並んでいるのはモモ肉ばかり。
ところが、その日に限ってモモ肉が見当たらず、代わりに牛肩ロースのかたまり肉が特売になっている。
そんなとき、次のように迷う方は多いのではないでしょうか。
「肩ロースでもローストビーフは作れる?」
「脂が多すぎて、冷めたらおいしくないのでは?」
「肩ロースはスジが多いと聞くけれど、固くならない?」
先に結論をお伝えすると、牛肩ロースでもローストビーフは作れます。
適度に脂が入った肩ロースを使えば、モモ肉とは違う、コクのあるジューシーなローストビーフに仕上がります。
ただし、肩ロースとモモ肉は、脂の量もスジの入り方も同じではありません。
モモ肉のレシピをそのまま使い、肉の重さだけを見て同じ時間加熱すると、脂っこくなったり、太いスジが残ったり、中心が加熱不足になったりすることがあります。
私は食品スーパー5社の精肉部門で、約25年間働いてきました。
牛肉の整形、ステーキや焼肉用商品の加工、ローストビーフ用ブロックの販売などを経験するなかで、「肩ロースで作ったら固かった」「モモ肉より高かったのに噛み切れなかった」という相談を受けたこともあります。
詳しく肉を見たり、作り方を聞いたりすると、肩ロースそのものが悪いのではなく、スジの多い部分を選んでいたり、肉の形に合わない火入れをしていたりするケースが少なくありませんでした。
この記事では、肩ロースとモモ肉の違い、スーパーでの選び方、失敗しやすいポイント、家庭で再現しやすい火入れの手順まで詳しく解説します。
肩ロースを買ってから後悔しないためにも、まずはモモ肉と何が違うのかを確認していきましょう。
ローストビーフは肩ロースでも作れる|ただしモモ肉と同じ扱いはしない

肩ロースでもローストビーフは作れる
牛肩ロースは、ローストビーフに使える部位です。
肩ロースは、牛の首に近い肩から背中にかけて続く大きな部位です。赤身の中に脂が入りやすく、牛肉らしい濃厚な味があります。
スーパーでは、薄切りにしてすき焼き用やしゃぶしゃぶ用にしたり、厚めに切ってステーキや焼肉用にしたりすることが多い部位です。
かたまりのまま穏やかに加熱すれば、ローストビーフとしてもおいしく食べられます。
農林水産省が紹介している和風ローストビーフのレシピでも、ローストビーフ用の牛かたまり肉として、モモ肉と肩ロース肉の両方が挙げられています。
そのため、「肩ロースではローストビーフを作れない」と考える必要はありません。
ただし、どの肩ロースのかたまり肉でも、同じように柔らかく仕上がるわけではありません。
肩ロースは一つの小さな筋肉ではなく、性質の異なる複数の筋肉が集まった大きな部位です。切り出された場所によって、脂の量、スジの太さ、肉のきめが変わります。
この個体差と場所による違いが、肩ロースを選ぶときの難しさです。
肩ロースならではの濃厚な味が楽しめる
肩ロースで作る最大の魅力は、赤身と脂の両方を楽しめることです。
モモ肉のローストビーフは、脂が少なく、さっぱりした味に仕上がります。赤身本来の味を楽しみたい方には向いていますが、加熱しすぎるとパサつきが目立ちやすい部位でもあります。
肩ロースには、赤身の間や外側に適度な脂があります。
加熱すると脂が溶け、赤身へコクと香りを加えてくれます。少し火が入りすぎた場合でも、脂の滑らかな口当たりがあるため、モモ肉ほどパサつきを感じないことがあります。
特に、温かい状態で食べるローストビーフには肩ロースの脂がよく合います。
薄く切った肩ロースへ温かいソースをかけ、マッシュポテトや温野菜を添えると、ごちそう感のある一皿になります。
一方、完全に冷やして食べる場合は注意が必要です。
牛脂は冷えると白く固まります。脂の多い肩ロースを冷蔵庫から出してすぐ食べると、口の中に脂が残り、重く感じることがあります。
冷製のローストビーフとして食べたいなら、脂が細かく入り、外側に厚い脂が付きすぎていない商品を選びましょう。
「肩ロースなら必ず柔らかい」とは限らない
「ロース」という名前を見ると、サーロインやリブロースのように、どの肉も柔らかいと思うかもしれません。
しかし、肩ロースには、比較的柔らかい部分だけでなく、太いスジや筋膜を含む部分もあります。
赤身の中央を横切る白い線が、細かなサシではなく、硬いスジだったということもあります。
私は精肉売場で、肩ロースのかたまり肉を見たお客様から、「これだけ白いものが入っていたら、脂が多くて柔らかいですよね」と聞かれたことがあります。
ところが、白い部分をよく見ると、細かな脂ではなく、赤身を分けるように入った太いスジでした。
脂は加熱すると溶けますが、太いスジが短時間の加熱ですべて柔らかくなるわけではありません。
中心まできれいなロゼ色に仕上がっていても、スジの方向へ厚く切れば、噛み切りにくいローストビーフになります。
肩ロースを選ぶときは、値段やサシの多さだけでなく、スジの位置まで確認することが大切です。
肩ロースとモモ肉の違い|ローストビーフに向くのはどっち?

肩ロースは脂のコクがあり、モモ肉は赤身の味が濃い
肩ロースとモモ肉の大きな違いは、脂の入り方です。
肩ロースは赤身の中へ脂が入りやすく、商品によっては外側にも厚い脂が付いています。味は濃厚で、加熱したときの香りやコクを感じやすい部位です。
モモ肉は、肩ロースに比べて脂が少なく、赤身の割合が多い傾向があります。
余分な脂が少ないため、冷製のローストビーフにしても食べやすく、薄く切ったときの断面もきれいに見えます。
ただし、「肩ロースは脂が多い」「モモ肉は脂がない」と単純に分けられるものではありません。
牛の品種、等級、産地、切り出す場所によって脂の量は変わります。
国産牛のモモ肉でも細かなサシが入ることがありますし、輸入牛の肩ロースには脂が少ない商品もあります。
部位名だけで決めず、実際にパックへ入っている肉を見ることが大切です。
肩ロースはスジの場所によって食感が変わる
肩ロースは複数の筋肉が集まった部位なので、一つのブロックの中でも食感が変わることがあります。
片側は柔らかいのに、反対側には太いスジが入っている商品もあります。
このスジを断たずに厚く切ると、一枚のローストビーフの中に柔らかい部分と噛み切れない部分ができます。
モモ肉も均一ではありませんが、内モモやシンタマの中心部分など、形と肉質がそろったブロックは比較的火入れを管理しやすい傾向があります。
一方、外モモはよく動かす部分なので、筋繊維がしっかりし、場所によってはスジを感じやすくなります。
「肩ロースよりモモ肉のほうが絶対に柔らかい」とも言い切れません。
肩ロースでもスジが少ない部分を選び、繊維を断って薄く切れば食べやすくなります。反対に、スジの多い外モモを繊維に沿って厚く切れば、固く感じます。
部位名に加えて、スジ、形、切り方まで見る必要があります。
モモ肉は形がそろっていれば火入れを管理しやすい
ローストビーフを初めて作る方には、形のそろったモモ肉が扱いやすいでしょう。
脂が少ないモモ肉は、赤身の色や弾力の変化を確認しやすく、適切に火が入れば、ローストビーフらしいきれいな断面になります。
特に、厚さが端から端までそろった内モモやシンタマのブロックは、加熱ムラを抑えやすい肉です。
ただし、モモ肉は脂による助けが少ないため、加熱しすぎると急にパサつきます。
肩ロースより低脂肪だからといって、長く加熱しても大丈夫というわけではありません。
むしろ、赤身の割合が多い肉ほど、中心温度を確認し、必要以上に加熱しないことが重要です。
初心者ならモモ肉、濃厚さを求めるなら肩ロース
どちらを選ぶか迷った場合は、食べたい仕上がりから決めてください。
次のような方には、モモ肉が向いています。
- ローストビーフを初めて作る
- 脂っこい牛肉が苦手
- 冷製でさっぱり食べたい
- 均一できれいな断面に仕上げたい
- ローストビーフ丼やサラダに使いたい
一方、次のような方には肩ロースが向いています。
- 赤身だけでは物足りない
- 脂の甘みと牛肉のコクを楽しみたい
- 温かいソースと合わせたい
- 少しリッチなローストビーフを作りたい
- 肉のスジや繊維を確認して切り分けられる
どちらが上ということではありません。
モモ肉と肩ロースは、それぞれ違う魅力を持ったローストビーフ用の肉です。
スーパーでローストビーフ向きの肩ロースを選ぶポイント

太いスジが中央を横切っていない肉を選ぶ
肩ロースを選ぶときに最初に確認したいのは、赤身を横切る白い線です。
細かな白い点や網目状に入る部分は、脂である可能性があります。
一方、肉を大きく二つに分けるように入った太い白い線や、半透明で光沢のある膜は、スジや筋膜の可能性があります。
ローストビーフは、中心まで高温で煮込む料理ではありません。
太いスジが入ったまま短時間で仕上げると、その部分が口の中へ残りやすくなります。
スジが赤身の外側に付いている肉なら、調理前に取り除いたり、盛り付けるときに避けて切ったりできます。
しかし、ブロックの中央を複数のスジが横切っている肉は、切り分けるのが難しくなります。
同じ価格の商品が並んでいるなら、スジが少なく、赤身が大きくまとまっているパックを選びましょう。
牛肉の白い部分が脂かスジか分からない方は、「牛切り落としを炒めるとゴムみたいに固い!白い部分が『脂かスジか』を見分ける方法」も参考にしてください。
切り落としの記事ですが、脂、スジ、筋膜を見る基本は、肩ロースのかたまり肉にも応用できます。
厚さと形がそろったブロックを選ぶ
ローストビーフでは、肉の重さ以上に厚さと形が重要です。
同じ500gの肉でも、丸くて厚い肉と、薄く広がった肉では、中心まで火が入る時間が違います。
片側が厚く、反対側が細くなった三角形のブロックは、火入れが難しい形です。
厚い部分に合わせて加熱すると、細い部分は火が入りすぎます。細い部分に合わせて取り出すと、厚い部分の中心が加熱不足になる可能性があります。
できるだけ円柱や直方体に近く、端から端まで厚さがそろった肉を選んでください。
形が不ぞろいでも、調理用のひもで軽く整えられる場合があります。
ただし、無理に強く縛って巨大なかたまりにすると、中心までの距離が長くなります。見た目だけを整えるのではなく、火が均一に入りやすい形を意識しましょう。
脂が多すぎる肩ロースは避ける
肩ロースの脂は、うま味とコクにつながります。
しかし、脂が多ければ多いほど、ローストビーフに向くわけではありません。
外側の半分近くを厚い脂が覆っている肉や、赤身より脂が目立つ肉は、冷やしたときに脂が白く固まりやすくなります。
薄切りにしても脂が口へ残り、数枚食べただけで重く感じることがあります。
おすすめは、赤身が主体で、その中へ細かな脂がほどよく入っている肩ロースです。
外側に厚い脂が付いている場合は、すべて取り除く必要はありませんが、極端に厚い部分だけを薄く整えると食べやすくなります。
売場で「サシが多いから高級でおいしそう」と感じても、ローストビーフとして冷やして食べることまで考えて選びましょう。
ドリップ・乾燥・包装の状態も確認する
トレーの底に赤い液体が大量にたまっていないか確認してください。
この液体は一般にドリップと呼ばれます。血液だけではなく、肉から出た水分などが含まれています。
ドリップが多い肉は、調理前から水分が失われている可能性があります。肉の表面も濡れているため、フライパンで焼いたときに焼き色が付きにくくなります。
肉の端が黒っぽく乾燥していないか、表面がカサついていないかも見てください。
ただし、牛肉は空気への触れ方によって赤色や暗い赤紫色に見えるため、色だけで鮮度を断定してはいけません。
ドリップ、乾燥、消費期限、保存温度、包装の破れなどを合わせて確認しましょう。
精肉担当者には用途まで伝えて聞く
肩ロースのスジが分からない場合は、売場の精肉担当者へ聞いてみてください。
「どの肉が一番高いですか」ではなく、次のように用途を伝えると選んでもらいやすくなります。
「ローストビーフにしたいのですが、スジの少ない肩ロースはどれですか」
「この白い部分は脂ですか、それともスジですか」
「冷やして薄切りにしても食べやすい部分ですか」
私が売場にいたときも、料理名まで伝えてもらえると、その料理に合う商品を案内しやすいと感じていました。
同じ肩ロースでも、すき焼きに向く商品と、ローストビーフに使いやすい商品は必ずしも同じではありません。
分からないことを聞くのは、恥ずかしいことではありません。
肩ロースのローストビーフで失敗する3つの原因

原因1|モモ肉と同じ時間で加熱している
ローストビーフのレシピでは、「500gなら何分」と重さを基準にした説明をよく見かけます。
重さは一つの目安になりますが、それだけで加熱時間を決めるのは危険です。
火の通り方に大きく影響するのは、肉の最も厚い部分です。
同じ500gでも、厚さ4cmの細長い肉と、厚さ7cmの丸い肉では、中心へ熱が届く時間が違います。
肩ロースは脂やスジの入り方が均一ではないため、モモ肉よりも場所による温度差が出ることがあります。
以前うまく作れたモモ肉と同じ重さだからといって、同じ時間で仕上がるとは限りません。
時間は目安として使い、最後は中心温度計で確認してください。
原因2|火を止めた湯の余熱だけに頼っている
フライパンで表面を焼き、袋へ入れて沸騰した湯に沈め、火を止めて放置する方法があります。
簡単に見えますが、家庭ごとの条件によって仕上がりが変わりやすい方法です。
鍋の大きさ、湯の量、室温、肉の温度、肉の厚さ、ふたの密閉性によって、湯温の下がり方が変わります。
冬の寒いキッチンと夏の暑いキッチンでも結果は同じではありません。
炊飯器の保温機能も、すべての機種が同じ温度ではありません。
レシピどおりの時間放置したから安全とは言い切れず、反対に長く放置して火が入りすぎることもあります。
ローストビーフの赤い断面を見て、「これは生なのか、ちょうどよいのか」と不安になる方は少なくありません。
その不安を減らしてくれるのが中心温度計です。
高価な業務用でなくても構いません。ローストビーフを何度か作るなら、感覚だけで火入れを判断するより、一つ用意しておくほうが失敗を減らせます。
原因3|加熱後すぐに切っている
焼き上がった肩ロースを見ると、すぐに切って中の色を確認したくなります。
しかし、加熱直後の肉は、表面と中心に温度差があり、肉汁も動きやすい状態です。
このときに包丁を入れると、切り口から肉汁が流れ出ます。
「肩ロースなのにパサパサした」という場合、焼きすぎだけでなく、切るのが早すぎた可能性もあります。
加熱後は清潔な皿やバットへ移し、肉の厚さに応じて休ませてください。
休ませている間にも余熱で火が進みます。
そのため、フライパンやオーブンの中で完全に仕上げようとせず、休ませている時間まで含めて火入れを考える必要があります。
スジや繊維に沿って厚く切っている
中心がきれいな色でも、切り方が悪いと固く感じます。
肩ロースの筋繊維やスジが左右へ伸びているなら、包丁は上下方向へ入れます。長い繊維を短く断つように切るのが基本です。
繊維に沿って切ると、一枚の中に長い繊維が残ります。
噛んでもなかなか切れず、口の中で水分だけが抜け、「固い」「パサパサする」という印象になります。
肩ロースは厚く切るほど豪華に見えますが、スジを感じやすい部位です。
食べやすさを優先するなら、よく切れる包丁を使い、繊維を断つ方向へ薄めに切りましょう。
肩ロースを失敗なく仕上げる下処理と火入れの手順

手順1|肉の形とスジを確認する
肩ロースをパックから取り出し、清潔な皿やバットへ置きます。
表面にドリップが付いていたら、キッチンペーパーで軽く押さえてください。
強くこする必要はありません。
表面が濡れたままだと、フライパンへ入れたときに水蒸気が発生します。焼くというより蒸すような状態になり、香ばしい焼き色が付きにくくなります。
次に、外側の脂と筋膜を確認します。
厚すぎる脂は薄く整え、表面を覆う硬い筋膜があれば、赤身を削りすぎない範囲で取り除きます。
肉の中央を横切るスジを無理に抜こうとすると、かたまりが分かれて形が崩れることがあります。
中央のスジは、加熱後にスジを断つ方向へ薄く切るか、スジを避けて切り分けるほうが扱いやすい場合もあります。
この段階で、肉の繊維がどの方向へ伸びているかも見ておきましょう。
手順2|塩は焼く直前を基本にする
家庭で失敗を減らすなら、塩は焼く直前に振る方法が分かりやすいでしょう。
肉の両面と側面へ、薄く均一に振ります。
市販のステーキソースやしょうゆを使う場合は、ソースにも塩分があります。最初から塩を多く振りすぎないようにしてください。
黒コショウ、ニンニク、ローズマリーなどは好みで使えます。
ただし、調味料をたくさん使っても、太いスジが消えたり、加熱しすぎた赤身へ水分が戻ったりするわけではありません。
下味よりも、肉選びと火入れを優先してください。
手順3|フライパンで全面に焼き色を付ける
フライパンを温め、少量の油を入れます。
肩ロースに外脂が多い場合でも、最初に少量の油を使ったほうが、肉の表面をフライパンへ密着させやすくなります。
肉を入れたら、一つの面だけを長時間焼き続けないでください。
表、裏、側面を順番に返し、全面へ香ばしい焼き色を付けます。
トングを使うと、側面も安定して焼けます。
フォークを何度も深く刺して肉を動かすと、穴から水分が出やすくなるため避けましょう。
ここでの目的は、中心まで火を通すことではありません。
表面へ焼き色を付ける工程と、中心へ穏やかに熱を入れる工程を分けて考えます。
手順4|低めの温度で中心まで穏やかに加熱する
全面へ焼き色が付いたら、オーブンや低温の加熱環境で中心へ熱を入れます。
家庭で再現しやすいのは、低めの温度に設定したオーブンを使い、中心温度計で確認する方法です。
肉の最も厚い部分へ、温度計を側面から中心に向けて差します。
上から差すと、先端が中心を通り越したり、フライパンや天板に近づいたりすることがあります。
加熱時間は、肉の重さだけで決めないでください。
肉の厚さ、オーブンの性能、加熱前の肉の温度によって変わるため、レシピの時間は確認を始める目安として使います。
一般的な一枚肉の牛肉をピンク色に仕上げる場合でも、中心部が63℃に達し、その状態から少なくとも3分休ませることを一つの安全目安にできます。
中心が63℃へ届いていない場合は、見た目がきれいでも加熱を続けてください。
小さな子ども、高齢者、妊娠中の方、体調や免疫機能に不安がある方が食べる場合は、赤い仕上がりよりも十分な加熱を優先します。
また、次の表示がある商品は、一般的な一枚肉とは扱いが異なります。
- 成形肉
- 結着肉
- テンダライズ処理
- 筋切り処理
- 味付け肉
- タレへ漬け込んだ肉
これらは表面に付いていた細菌が内部へ入っている可能性があるため、商品の注意表示に従い、中心まで十分に加熱してください。
厚生労働省は、食肉について中心部を75℃で1分間以上、または同等以上の加熱効果が得られる方法で加熱するよう案内しています。
ローストビーフのピンク色だけを目的に、安全性を後回しにしないことが大切です。
手順5|加熱後はすぐ切らずに休ませる
目標とする中心温度へ達したら、肉を清潔な皿やバットへ移します。
アルミホイルを使う場合は、きつく密閉せず、上からふんわりかけてください。
密閉すると蒸気がこもり、せっかく焼いた表面が湿りやすくなります。
肉の厚さに応じて休ませ、その間の中心温度も確認します。
休ませている間に、表面の熱が中心へ移ります。これを余熱調理と呼びますが、余熱だけへ頼って加熱不足を補うのはおすすめできません。
必要な温度へ達していなければ、もう一度加熱してください。
「休ませれば何となく火が入るだろう」ではなく、温度計で確認することが重要です。
手順6|繊維とスジを断つ方向へ薄く切る
休ませた肉をまな板へ移し、繊維の方向を確認します。
生の状態で見ておいた繊維を、短く断つ方向へ包丁を入れてください。
肩ロースは、モモ肉より少し薄めに切ると食べやすくなります。
包丁を前後へ大きく動かし、肉を上から強く押しつぶさないように切りましょう。
太いスジが出てきたら、無理に一枚へ含めず、スジを境に切り分けても構いません。
盛り付けるときは、赤身だけの部分と脂が入った部分を交互に並べると、食べる人が好みに合わせて選べます。
切り方で肉の水分量が増えるわけではありません。
それでも、一口の中に残る繊維とスジが短くなるため、同じ肉でも柔らかく感じやすくなります。
肩ロースのローストビーフでよくある疑問

中がピンク色なら生焼け?
中がピンク色だから生、茶色だから安全とは限りません。
牛肉の色は、肉に含まれる色素、酸素への触れ方、肉の状態などによって変わります。
十分に加熱されていてもピンク色が残ることがあります。反対に、温度が十分上がっていなくても、見た目だけ茶色くなる場合があります。
肉汁の色や断面だけに頼らず、中心温度と加熱時間で判断してください。
特に、肉の内部まで刃や針を入れた商品、成形した商品、漬け込んだ商品は、表面だけを焼けばよいとは考えないでください。
冷やしたら脂が白く固まったのは失敗?
肩ロースの脂が冷蔵庫で白く固まるのは、自然な変化です。
腐敗や調理失敗とは限りません。
ただし、脂が多い肉を冷蔵庫から出してすぐ食べると、口の中で脂が溶けにくく、重く感じることがあります。
食べる分だけを冷蔵庫から出し、長時間にならない範囲で冷たさを少しやわらげると、脂の口当たりが変わります。
薄く切り、わさびじょうゆ、ポン酢、玉ねぎソースなど、酸味や香味のあるソースを合わせるのもおすすめです。
長時間の常温放置は避けてください。
太いスジが残ったときはどうする?
太いスジが残った場合は、繊維とスジを断つ方向へ、できるだけ薄く切ります。
それでも噛み切りにくいスジは、無理にそのまま盛り付ける必要はありません。
スジを避けて赤身を切り分け、残った部分は細かく刻んで別の料理へ使えます。
例えば、次のような料理です。
- ガーリックライス
- ローストビーフサンド
- サラダ
- 牛肉入りオムレツ
- キノコと牛肉のソース
- ローストビーフ丼
細かくした肉を長時間炒め直すと、赤身まで固くなります。
ご飯や野菜を先に仕上げ、火を止める直前に肉を加えて温める程度にしてください。
国産牛と輸入牛はどちらが向いている?
産地だけで、ローストビーフへの向き不向きを決めることはできません。
国産牛の肩ロースは脂が多く入り、濃厚に仕上がる商品があります。輸入牛の肩ロースは、赤身が多く、比較的さっぱりした商品を見つけやすい傾向があります。
しかし、同じ国産牛、同じ輸入牛でも商品ごとに違います。
ローストビーフ用として見るべきなのは、次のポイントです。
- 太いスジが少ない
- 厚さがそろっている
- 脂が多すぎない
- ドリップが少ない
- 表面が乾燥していない
- 予算と食べ方に合っている
高い肉を買えば、必ず成功するわけではありません。
私は精肉売場で何度もローストビーフ用の肉を販売してきましたが、高級な霜降り肉より、形のそろった手頃な赤身肉のほうが扱いやすい場合もあります。
価格より、料理に合った肉を選ぶことが大切です。
作ったローストビーフは何日保存できる?
家庭で作ったローストビーフは、市販品と同じ保存性ではありません。
工場や専門店では、加熱、冷却、包装、保存温度が管理されています。家庭では、調理器具の清潔さ、肉へ触れた回数、加熱後の冷却方法などによって保存状態が変わります。
調理後は室温へ長く置かず、粗熱が取れたら清潔な容器へ入れて冷蔵してください。
最初からすべて切るより、食べる分だけ切るほうが、切り口が空気や調理器具へ触れる回数を減らせます。
何日も保存する前提ではなく、できるだけ早めに食べ切りましょう。
異臭、強い変色、ぬめりなど、普段と違う状態が見られた場合は食べないでください。
まとめ|肩ロースでも作れるが肉選びと中心温度が成功のポイント

牛肩ロースでも、ローストビーフは作れます。
モモ肉より脂が入りやすいため、濃厚でコクのある仕上がりを楽しめるのが肩ロースの魅力です。
ただし、肩ロースは複数の筋肉が集まった部位で、商品によって脂やスジの入り方が違います。
ローストビーフ用に選ぶときは、次のポイントを確認してください。
- 太いスジが中央を横切っていない
- 厚さと形がおおむねそろっている
- 外側の脂が厚すぎない
- ドリップや乾燥が少ない
- 成形肉や筋切り処理肉ではないか表示を確認する
火入れでは、肉の重さとレシピの時間だけを頼りにしてはいけません。
同じ500gでも、肉の厚さが違えば、中心まで熱が届く時間は変わります。
中心温度計を肉の最も厚い場所へ差し、温度と加熱時間を確認してください。
加熱後はすぐ切らずに休ませ、最後に繊維とスジを断つ方向へ薄く切ります。
初めて作る方や、脂の少ないさっぱりした味が好きな方には、形のそろったモモ肉が扱いやすいでしょう。
脂のコク、ごちそう感、牛肉らしい濃厚な味を楽しみたい方には肩ロースが向いています。
肩ロースは、モモ肉が売り切れていたときの代用品ではありません。
モモ肉とは違う魅力を持った、立派なローストビーフ用の肉です。
スジの少ない商品を選び、中心温度を確認し、薄く切る。
この3点を押さえれば、肩ロースでも、家族に喜ばれるジューシーなローストビーフへ近づけます。


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